闇を照らす光

陽差しが弱り、黄昏がディロバ市を包み込もうとしていたその時、重厚な敲き音が弁護士ナガオカ・ユウスケの事務所の扉に響いた。ユウスケは大量の案件に追われ、机の上には積み上がった書類が山のようだった。だが、来客の雰囲気にはいつも敏感だったため、すぐに応答した。


「どうぞ、お入りください。」
扉の向こうから現れたのは、絶望に満ちた目をした若い女性だった。強く握られたハンドバッグがその手の中で震えている。彼女は深く息を吸い込み、部屋の中央に進むと、ようやく一言を口にした。


「ナガオカ先生、助けてください。」


彼女の名は美咲。同市で知られるベーカリーの娘で、常連客からの評判も良かった。しかし、彼女の父が突然の心臓発作で亡くなり、その後、街では怪しい噂が飛び交うようになった。それは、父親が実は大金を隠し持っており、それが犯罪者に狙われていたというものだった。


ユウスケは彼女の訴えを聞くと、冷静ながらも慎重に言葉を選んで質問を始めた。


「具体的に何が起こったのか、詳しく教えてくれますか?」


美咲は少し躊躇したが、決意を固めて口を開いた。
「父が亡くなる直前、何度も誰かに脅迫されているような素振りを見せていました。その時はただの勘違いだと思っていましたが、彼が亡くなった翌日に、私のアパートに何者かが侵入したんです。何も盗まれなかったけど、その後も怪しい影が私を追い回していたんです。」


ユウスケは頷き、一層表情を硬くした。
「警察には通報しましたか?」


「はい、しましたが、現場に証拠がなく、取り合ってもらえませんでした。私は怖くて…先生なら何とかしてくださると思って…」


ユウスケはしばらく考え込んだ後、決意を固める。
「分かりました。あなたの身の安全を最優先に考えましょう。それと並行して、父親の持っていたかもしれない大金についても調査します。」


同時に、彼は信頼の置ける私立探偵のヤマダ・タケシに連絡を取った。ヤマダはディロバ市内で有名な元警察官で、優れた調査能力を持っていた。二人は美咲の身辺調査と、父親が関わったと思われる犯罪の解明に乗り出した。


最初の手がかりは、父親が頻繁に訪れていたという怪しいバーの場所だった。ヤマダはそこへ足を運び、客やスタッフに聞き込みを行った。その結果、父親が亡くなる直前に何度も一人の男性と会談していたことが判明した。彼の名前はカワダ・シロウ、地元のギャングの一員だった。


ユウスケとヤマダはカワダを尾行し、その動きを監視することにした。カワダは怪しまれる素振りを見せながらも、突如として行方をくらました。この行動には何かしらの裏があることを感じ、二人はさらに調査を続けた。


数日後、事件は急展開を迎える。ヤマダが収集した情報から、カワダが隠れ家として使っているコンテナ倉庫の存在が浮上した。ユウスケとヤマダは夜闇に紛れてその倉庫に侵入し、内部を探り当てると、彼の予感が的中した。倉庫内には大金が保存された金庫があったのだ。


しかし、その瞬間、背後から銃声が響いた。カワダとその手下たちが倉庫に戻ってきたのだ。緊迫した状況の中、ユウスケとヤマダは机の下に身を潜め、機会を伺った。交渉や銃撃戦に持ち込むのではなく、慎重に状況を見極めるしかなかった。


数分間の沈黙の後、ユウスケは機を見計らってヤマダに指示を出した。「今だ!」


無音で動き出した二人は迅速かつ正確にカワダの手下たちを包囲し、制圧した。しかし、最後に残ったカワダは金庫の前でナイフを手にし、完全に追い詰められていた。


「これ以上の抵抗は無駄だ、カワダ。」ユウスケの声は冷静だった。「君が企てた全てのことはすでに明るみに出た。美咲の家に侵入したのも、脅迫したのも全て承知している。」


カワダは唇を震わせながらも、最終的にはナイフを床に落とした。「くそっ…全部ばれてたのか…」


数日後、警察に逮捕されたカワダからの供述は全ての謎を解き明かした。美咲の父親はカワダに大金を借りており、その返済を巡る脅迫が彼の命を縮めたのだった。そして、巧妙に隠された大金がついに美咲の手に戻り、彼女の新たな生活の一助となった。


ナガオカ・ユウスケの事務所に再び静かな日常が戻り、彼は次の案件に取り掛かるため、書類の山に向き直った。その背後では、新たなる一日がゆっくりと始まろうとしていた。