影を追う少女
ある町には、地元の人々に忌み嫌われる古びた洋館があった。その屋敷は長年、誰も住んでいなかったが、時折、中から不気味な声が聞こえることがあった。町の子どもたちは、その屋敷を「怨霊の家」と呼び、近寄ることを避けていた。
そんな中、ある日の午後、勇気を持った一人の少女、名を真琴という。彼女は友人たちに誘われ、洋館に肝試しに行くことを決意する。周りの者たちは、彼女に止めるよう説得するが、真琴は意志を貫く。好奇心が彼女を駆り立てていた。
友人たちは半ば渋々、真琴と共に洋館へ向かう。薄暗い森を抜け、ほどなくして洋館の姿が現れた。建物は崩れかけ、窓は黒い影のように小さく、まるで何かが内側から彼らを見つめているかのようにも思えた。
「本当に入るの?」友人の一人、裕也が不安そうに言った。しかし、真琴は入口のドアを押し開け、中に入った。友人たちは仕方なく続いたが、ドアが閉まる音に背筋が凍る。
屋内は静まり返っており、埃まみれの家具が目に入る。真琴は懐中電灯を照らしながら、薄暗い廊下を進んだ。彼女の心臓が早鐘のように鼓動し、恐怖に気づかれないように無理に明るい声を出す。
「見て、ここにはまだ昔の家具がたくさん残っているね!」
友人たちは同意したが、それぞれの表情に不安が漂っていた。突然、背後で物音が聞こえた。裕也が振り返って息を飲み込む。「何かいるのか…?」真琴は一瞬硬直したが、「きっと風の音だよ。進もう!」と強がる。
彼らは徐々に地下に向かう階段を見つけた。真琴は更なる好奇心に駆られ、暗い階段を降り始めた。友人たちも嫌々ついて行った。下に着くと、ここは不気味な雰囲気に満ちていた。冷たい空気が彼らを包み、耳を澄ますと奇妙なささやき声が響いていた。
「ここ、何かおかしいよ…」裕也が言った時、真琴はその声を聞いた。「怖がらないで、戻らないで…」不気味な冷気が彼女の背中を撫でる。
彼女は振り向くと何もいなかったが、心の奥に恐怖がぐんぐん深まっていくのを感じた。真琴は振り切って進むことにした。「もう少し先に行ってみようよ。この家の秘密を知りたい!」
その瞬間、地下の一角で急に何かが光った。真琴は走り寄ると、古い鏡が壁に掛かっていた。鏡には曖昧な影が映り込み、まるで彼女たち自身が映っているように見えたが、その後ろに誰かが立っているようだった。
「見て、誰かいる!」真琴が叫んだ瞬間、友人たちは一斉に後ずさりした。真琴は恐れを捨てて鏡に近づいたが、その時、影が彼女の背後に近づくのを感じた。振り返ると、誰もいない。
「もう、帰ろうよ…」裕也が言い出す。真琴は不安が募る心を抑えつけ、最後に一度だけ鏡を見つめた。その瞬間、鏡の中で彼女の目が、別の目と合った。反射したのは自分でない、誰かの怨霊のような暗い影だった。
彼女は恐怖のあまり、大声で叫び出した。「出て行こう!」友人たちも混乱し、何がなんだかわからないまま急いで階段を駆け上がった。
逃げる途中、真琴は振り返ることができなかった。彼女の心の中には、あの影の顔が焼き付いていた。無事に外に出たものの、彼女たちの呼吸は荒く、汗と恐怖でぬれていた。
「もう二度と来ない…」裕也が呟く。その言葉が、他の友人たちの心にも同じく響いた。彼らは洋館から遠ざかり、振り返ったが、屋敷の窓の一点からは、まだ覗くような目があった。
その日以来、真琴たちは洋館のことを思い出すたび、心の底から恐れを覚えた。そして、数日後のこと、彼女は夢の中で再びその影を見た。それは彼女の後ろに立っていて、いつも「戻って来て」と囁くのだった。
真琴は次第にその夢から逃れられず、どこへ行っても影を追ってくるように感じた。彼女の精神は少しずつ蝕まれていき、ついには外にも出られない状態になった。
彼女の心に浮かぶのは、あの「怨霊の家」。真琴はいずれ自分も、その影に取り込まれてしまうのではないかと思うようになった。友人たちも彼女に連絡を取ることはできず、その恐怖の輪から外れられずにいたのだ。
数ヶ月後、真琴は家の窓から外を見ていることが多くなった。そして、いつの間にか彼女もまた、あの洋館に足を運ぶことになってしまった。暗い影に導かれ、彼女は再びその場所へと向かうのだった。
いつの間にか、彼女の心の中にも影が巣食い、そこから逃れられない運命に捕らわれていた。静まり返った洋館は、再び新たな住人を待っているかのように佇んでいるのだった。