兄の背中、私の道
私には兄がいる。彼の名前は大輔、私より五つ年上だ。子供の頃から、彼は私にとって憧れの存在だった。背が高く、いつも友達に囲まれていて、笑顔が絶えない。その反面、私はいつも影のように彼のそばにいて、彼の光を浴びながら成長していった。
兄弟の時間は、特に夏休みの昼下がりに色濃く思い出される。私たちはいつも、裏山へ冒険に出かけた。大輔はリーダーのように道を切り開き、私はその後を追いかけた。彼が見つけた秘密の場所、例えば小さな滝や岩の上に描かれた古代の絵文字など、私の心に刻まれた。兄の冒険心は、私の世界を広げてくれた。
しかし、歳を重ねるごとに兄と私の関係は少しずつ変わっていった。大輔は高校に進学し、私が中学生になる頃、彼は忙しい日々に追われるようになった。部活動や勉強、そして友人たちとの時間が彼の生活の中心となり、私の存在は少しずつ薄れていった。私は寂しさを感じながら、兄との時間が過ぎ去っていくことを受け入れなければならなかった。
ある日の午後、私は兄が参加するサッカーの試合を見に行くことにした。彼のチームが試合をしているグラウンドには、様々な人々が集まっていた。兄はキラリと光るようにボールを操り、チームメイトたちと連携しながらゴールを目指す。その姿は、昔の無邪気な大輔とは別人のようで、私はその変化に驚いた。
試合が終わり、兄は私を見つけて笑顔で駆け寄ってきた。「お前、見てたか?」と誇らしげに言った。私は小さく頷き、「すごかったよ」と応えた。すると、彼は「今度一緒に練習しようぜ」と提案してくれた。私はその言葉に嬉しさを感じつつも、同時に不安も抱えていた。兄は私の成長をどう思っているのだろうか。
日々の練習が始まった。私は最初は壁を蹴るのすらろくにできなかった。しかし、大輔は根気強く教えてくれた。彼の優しさに触れることで、私は少しずつ自信を持てるようになった。「お前はもっとできる」と励まされ、練習を重ねるうちに、ふと昔のようなお互いの距離感を思い出した。
その年の冬、兄は大学受験を迎えた。私の中にはプレッシャーと期待が入り混じっていた。彼の夢が叶うのか、それとも挫折するのか、私は不安な気持ちを抱えていた。ある夜、兄が勉強するために遅くまで起きていたとき、私は彼の部屋を訪ねた。
「勉強、どう?」と尋ねると、兄はふと顔を上げ、「お前も頑張れよ。お前の成長は俺の励みだ」と言ってくれた。その言葉に心が温かくなり、兄と私の絆が再び深まったように感じた。
受験の日が訪れた。兄は緊張の面持ちで家を出て行った。私も彼の成功を祈りながら、普段通りの生活を送った。しかし、結果が発表された後、彼の様子は明らかに違った。合格の知らせは届いたものの、何かしらの重荷を背負っているように見えた。
数日後、私たちは話をする時間を持った。兄は「実は、俺は大学に行くことが本当に自分の望みなんだろうか」と呟いた。その言葉に驚きつつ、私は彼の悩みを真剣に受け止めた。兄の進むべき道が、私にはまだ見えていなかった。
数ヶ月後、兄は大学に進学したが、新しい環境に馴染むことができず、次第に気力を失っていった。私は何もできずに彼を見守るだけだった。大輔の夢がどうなるのか、私には全く想像もつかなかった。それでも、彼が再び輝く日が来ることを心から願っていた。
やがて、彼は大学を中退し、自分の道を探す旅に出ることを決意した。私はその選択を理解し、応援することにした。兄弟として支え合い、何が正しいのかを一緒に考えながら、私たちの日々は新たな章へと進んでいった。
それからしばらくの月日が流れた。大輔は自分のやりたいことを見つけ、新たな道を歩み始めた。私はそんな兄を誇りに思い、彼の周りにはまた笑顔が戻ってきた。兄弟の絆は、時には試練を経て深化するのだと、私たちは実感している。
今でも私たちはしょっちゅう連絡を取り合い、時には一緒に過ごすこともある。兄弟としての深いつながりは、分かち合った思い出や喜び、そして困難を共に乗り越えたからこそ生まれたものだと強く感じる。兄という存在は、私にとって教えを与えてくれる師であり、同時に心の支えでもある。今後もその絆を大切に育んでいきたい。