明と共に走る
高校3年生の秋、東京の小さな町にある高校で物語は始まる。桜井慧は、学園祭を目前に控えたクラスの実行委員長だ。普段はおとなしい彼女だが、クラスメイトの期待を背負い、奮闘している。しかし、彼女の心には大きな不安があった。幼馴染の兄、明が2年前に事故で亡くなってしまったのだ。
明とは、幼いころからずっと一緒に過ごしてきた。彼と過ごした楽しい思い出は今も色あせることがないが、同時に彼の不在を痛切に感じる日々が続いていた。そんなある日、慧は学校の帰り道、明が好きだった公園に立ち寄った。色づく木々の下、明と一緒に過ごした日々を思い出す。涙が頬を伝った。
翌日、クラスメイトたちと話し合っていると、急に気分が落ち込み、意見が言えなくなってしまった。友人たちは彼女に心配の目を向けるが、慧は笑顔でやり過ごす。しかし、その夜、部屋で明との思い出を振り返ると、やり場のない感情が胸の内に溜まり、とうとう泣き崩れた。
学園祭の日、慧は実行委員の仕事を一生懸命にこなした。彼女の努力は周囲にも認められ、徐々にクラスメイトとの距離も縮まっていく。「桜井、すごいじゃん!」という声が飛び交う中、彼女は明のことを思い出し、「彼が見てくれているかもしれない」と、前向きな気持ちになった。
学園祭のクライマックス、勤勉課題である「命のリレー」がスタートした。このイベントは、生徒たちが様々な命の大切さを学ぶ企画である。慧は、自分が実行委員長としてこのリレーを成功させたいという思いが強くなった。特に明に捧げる想いがあった。彼の「生きる」という意志を引き継ぎたい。
リレーが始まると、慧は自らも参加することに決めた。学生たちが一つになり、明かりが灯った。走りながら、彼女は明のことを思っていた。「あの日、明が目指していた夢は何だろう?」それを考えることで、少しずつ彼女の心の悲しみが薄れていくのを感じた。
レースが進むにつれ、彼女はクラスメイトたちの応援に励まされ、全力で走り続けた。周囲の温かい声援が、彼女に力を与えた。ゴールに近づくと、彼女は明が自分を見守ってくれている気がした。最後の一歩を踏み出すと、悟ることができた。「私は一人じゃない。」仲間がいて、明の思いも一緒に共有できる。
レースが終わった後、慧は気持ちが晴れやかになり、明との関係が一歩進んだように感じた。彼女は仲間に囲まれ、つい笑顔がこぼれた。「本当に楽しかったね!」と、クラスメイトたちが言っている。その言葉に、彼女は思わず涙を流してしまった。
学園祭が終わった翌日、クラスメイトたちが集まると、意見交換会が開かれた。慧は自分の心の内を話す勇気を持ち、明の存在について語った。「彼は私にとって、いつまで経っても特別な人です。」友人たちも一緒に涙し、その気持ちに共感してくれた。
その瞬間、慧は自分が過去の悲しみに縛られていたわけではないと気づく。彼女の中で、明はいつまでも生き続ける存在なのだ。そして、仲間たちとの絆を深めることで、彼女自身も成長していく。心の中の明への思いは、悲しみではなく、感謝と愛に変わっていくのだった。
その日以来、慧は月日が流れる中でも、明の思い出を心の支えとして、新たな一歩を踏み出していく。彼女が大切にするのは、友情や思い出、そして明との絆だと感じる毎日が続く。希望が見える未来に向かって、彼女はしっかりと進んでいくのだった。