青春の約束
校舎の一角にある広いグラウンド。秋の陽射しが柔らかく肌を包むその場所には、サッカー部の練習が行われていた。俊彦はその一員で、ボールを蹴る度に心が高鳴った。「今日は何かが違う」と、彼は感じていた。仲間たちと一緒に過ごすひととき、学校生活は常に良い思い出で満ちていたが、ふと「青春」という言葉が頭をかすめる。今しか味わえない瞬間を大切にしたいと、彼は思った。
しかし、彼の心を悩ませることがあった。彼には幼馴染の美咲がいる。両親が仲が良く、彼女の家には時折遊びに行ったものだ。だが最近、彼女と過ごす時間が減っている。美咲は大学受験のため、毎日塾に通い詰めていた。彼女を応援したい反面、離れていくのが怖かった。青春の一ページが終わってしまうのではないかと、俊彦は不安を感じていた。
ある日、彼はサッカー部の練習が終わった後、美咲を呼び出すことにした。学校の屋上から見える夕焼けの美しさを、彼女と共有したかったからだ。事前に約束を取り付け、美咲は少し驚いた顔をしながらそれを受け入れた。
屋上に着くと、オレンジ色の空が広がっていた。「この景色、すごいよね」と俊彦は話しかける。美咲はうなずきながら、どこか寂しそうな表情を浮かべた。しばらくの沈黙が続く。俊彦はその隙に、自分の気持ちを言おうか迷ったが、言葉が出てこない。
「最近、忙しいの?」俊彦が尋ねると、美咲は目を伏せた。「うん、受験勉強で…少し疲れてるかな。でも頑張ろうと思ってる」と彼女は答える。俊彦は心が重くなる。彼女からの返事には希望が感じられるが、その裏には孤独が潜んでいるのを感じた。
「私も、もうすぐ受験があるから…」俊彦は言葉を続けた。「お互い頑張ろう。合格したら、絶対一緒に遊びに行こうね。」その言葉には、彼自身も知らない約束が込められていた。思春期特有の照れくささを感じながら、それでも少し勇気が湧いてきた。
やがて美咲は「俊彦、ありがとう。あなたみたいな友達がいて本当に幸せ。」と言った。俊彦の心は一瞬温かくなったが、その瞬間、彼女の目に涙が浮かんでいるのを見逃さなかった。「どうしたの?」と訊ねると、美咲は「受験のことが不安で…でも、頑張らなきゃと思うともどかしくて」と言った。
その言葉が、俊彦の胸に響いた。彼女もまた、自分と同じように青春の大切な瞬間を感じているのだと、心が通じ合ったような気がした。俊彦は思わず彼女の手を握る。「一緒に頑張ろう、美咲。今は辛いかもしれないけれど、どんな結果が出ても、俺たちは友達だよ。」
美咲は不安そうな顔から笑顔に変わり、そのまましばらく二人は夕焼けに染まる空を見つめていた。風が心地よく吹き、彼の心の中にも希望が広がっていく。青春の一瞬を彼女と共有することができたことに、感謝の気持ちが深まった。
それから数週間が過ぎ、彼らはそれぞれの道を歩み始めていた。俊彦はサッカー部の練習に没頭し、美咲は塾で必死に勉強していた。受験日が近づくにつれ、彼女とは会う機会が減ったが、気持ちだけは変わらなかった。「今、頑張ろう」と心の中で彼女に呟く自分がいた。
そして、彼女が受験を終えた日、俊彦はグラウンドで待っていた。彼女が合格発表を受け取りに行く、その瞬間を共にできたらと思ったからだ。数時間後、美咲が駆け込むようにグラウンドにやってきた。彼女の顔は真剣だったが、すぐに喜びの表情に変わった。「合格したよ!」と彼女は叫び、俊彦は思わず彼女を抱きしめた。
その瞬間、二人の心は青春の一ページを共に書いていることを感じた。一緒に過ごした毎日が、これからも続いていくことを願った。青春とは、苦しい瞬間だけでなく、ささやかな幸せの積み重ねでもあり、彼らはその一部になれたことをかみ締め、空を見上げた。次のステージへと歩み出すための新しい一歩を、一緒に持っていくという約束を胸に。