桜色の恋
晴れやかな春の日、桜の花びらが舞い散る中、由美と翔は大学のキャンパスを歩いていた。二人は高校時代からの親友で、何でも話せる仲だ。けれども、最近の由美は翔に対して奇妙な感覚を抱いていた。その感覚を言葉にするのは難しかったが、きっと「恋」というものだろう、と彼女は思っていた。
その日は、キャンパス近くのカフェでペア活動の調査をする約束をしていた。春の風に吹かれながら、由美は心の中にある思いを隠しつつ、翔との時間を楽しんでいた。
カフェに着くと、由美はソファの席を見つけ、その席に向かおうとしたが、翔が何度も通ったことのあるカフェの奥にある少し人里離れた席を選んだ。その席に初めて座った由美は、周囲のざわめきがほとんど聞こえないことに驚いた。
「ここ、いいね」と由美は微笑んだ。
「そうだろう。ここならゆっくり話せるし、ちょっとした秘密基地みたいだろ」と翔は笑顔を返した。
二人はカフェのメニューを開き、しばらく無言で眺めていた。だが、由美の心はおしゃべりだった。翔に対する感情は日々増していた。そんな由美の内心を知ってか知らずか、翔は穏やかに話しかけた。
「由美、最近忙しそうだけど、大丈夫?」
「うん、大丈夫よ」と由美は頷いたが、その一言がドキリとさせた。ここで感情を伝えるべきか、いや、今はまだ・・・
注文を済ませた後、翔はノートを広げ、ペア活動の計画を語り始めた。しかし、由美の心は違う方向を向いていた。彼の口元や優しい瞳、まるで全てが近くて遠い存在のように感じられた。
次の瞬間、由美はカバンの中から小さなアクセサリー袋を取り出した。「実はこれ、私が作ったんだ」と彼女は言って、翔に渡した。
「え、これ自分で作ったの?」と翔は驚きと喜びの表情を見せた。「すごい、ありがとう!」
そのアクセサリーには小さな桜のモチーフがついていて、由美はそれを見ながら心の中で決意を固めた。「今日こそ、言うんだ」と。
ペア活動の計画について話が進んでいたが、由美の思考はもはやそこにはなかった。思い切って、彼女は話題を変えた。「ねぇ、翔、ちょっと聞いてもいい?」
「もちろん、何でも」と彼は答えた。
「翔、もし…」由美は言葉を選びながら「もし、友達以上の感情を誰かに抱いたら、どうする?」
翔は一瞬考え込んだが、すぐに笑顔を見せた。「それは素敵なことじゃないか。でもさ、友達以上の関係になるってことは、相手も同じ気持ちであることが大切だよね。」
その言葉に由美は一輪の希望を見つけた。「そうだよね。でも、勇気ってなかなか出ないよね」
「確かに」と翔は同意した。「でも、もしその気持ちが本当に強いなら、きっと伝えるべきだと思うよ。」
その瞬間、カフェのドアが開き、一陣の風が二人の間をすり抜けた。由美は深い息を吸い込み、決心した。
「翔、私、実は…」心臓がドキドキと鼓動を速める。「私、翔のことが好きなの。ずっと前から、でも言えなかった」
翔の目が一瞬驚きに見開かれたが、すぐに優しい表情に変わった。「由美…」
「ごめん、急にこんなこと言って。でも、この気持ちをずっと隠しているのは辛かったの。」
翔は少し黙った後、手を差し出し、由美の手を握りしめた。「由美、実は僕も同じ気持ちだったんだ。でも、君を失うのが怖くて言えなかった。」
二人の視線が交錯し、その瞬間、全てが変わった。友人として築いてきた時間が、恋愛へと変わる瞬間だった。由美の胸には新たな希望と喜びが広がり、翔の手の温かさがそれを証明していた。
カフェの外に出ると、春の陽射しが二人を優しく包んだ。桜の花びらが再び舞い上がり、空を彩る。新たな関係の始まりを祝福するかのように。
その日は、二人にとって忘れられない一日となった。友人関係から恋人関係へと進化した日。由美と翔は手をつなぎながら、未来への第一歩を踏み出した。笑い合い、夢を語り合い、これからの毎日がどれほど素晴らしいものになるのか、心から楽しみにしていた。