緑の誓い
夏休みが始まる前の最後の授業で、絵莉奈先生は教室の黒板に大きく「環境」と書いた。「みんな、この夏休み中に環境について考えてみましょう」と笑顔で言った。クレヨンの匂いが漂う教室で、子供たちは興味津々に耳を傾けていた。
夏休みの日々は、花火や虫取り、川遊びといった楽しい活動が目白押しだったが、12歳の智也は違った夏を迎えた。村の端に広がる青い森には、以前から冒険したいと思っていた場所があった。今年こそ、森の秘密を探ると決心した彼は、バックパックを背負い、探検の旅に出ることにした。
森の入り口で、不思議なものに気づいた。普通の木々の間に、奇妙な模様の葉を持つ一本の古木がそびえ立っていた。智也はその木に引き寄せられ、手を触れると、信じがたい光景が広がった。目の前が突然ぼんやりと光り、いつの間にか彼はどこか不思議な場所に立っていた。
「ここはどこだろう?」智也が呟くと、背後からしなやかな声が聞こえた。「こんにちは、智也君。ここはこの森の守護者たちが住む場所だよ。」振り返ると、そこには小さな妖精が飛んでいた。翅は虹色に輝き、その中央には星形の模様が浮かんでいた。「私はステラ。君に森と環境について教えたいことがあるんだ。」
ステラは智也を連れて、森の奥深くへ進んだ。そこには信じられない光景が広がっていた。美しい泉が輝き、大小の動物たちが自由に行き来している。しかし、ステラは悲しそうな顔をした。「智也君、この森には大きな問題があるんだ。この場所も本来の姿を失いかけているの。」
智也は首をかしげた。「でも、ここはすごくきれいだよ。一体何が問題なんだい?」
ステラは翼をはばたかせながら答えた。「実は、地球全体で人間が環境を傷つけている。ゴミの増加や森林伐採、汚染された水が原因で、私たち妖精の力が弱くなっているの。君に、この問題を解決するのを手伝って欲しいんだ。」
森を守るためには、智也自身の行動だけでなく、村全体の意識を変える必要があった。家に戻った智也は、早速村の会議で環境について話すことにした。村の大人たちは最初は半信半疑だったが、智也の熱意に触れ、ついには協力を約束した。
村の人々は、ゴミ拾いや植林活動を始めた。智也は毎日村の仲間と共に、森の奥深くへ足を運んで植物や動物を観察し、汚染を防ぐ知恵をみんなで考えた。そして、たびたびステラと会い、妖精たちの力を復活させるためのアドバイスを受けた。
それから数カ月が経ち、森は少しずつ息を吹き返すかのように変わっていった。村中の人々が協力して働きかけた結果、動物たちも再び活気を取り戻し、泉の水も澄んでいった。そして智也自身も、この冒険を通じて成長し、大切なことに気づいていった。
ある日、智也はステラに最後の報告に行くことにした。「ステラ、みんなのおかげで森が元気になったよ。これからもずっと守っていくよ。」
ステラは微笑んで頷いた。「ありがとう、智也君。君たちのおかげで、私たち妖精も力を取り戻せる。だけど、これからも環境を大切にする気持ちを忘れないでね。」
智也は大きく頷いた。彼の心には、これからも地球を守るという大きな使命感が宿っていた。子どもたちにとっては小さな一歩かもしれないが、それが未来を創る力になるのだと、彼は信じていた。
その後も智也は村のリーダーとして、環境保護の活動を続け、村の子どもたちにもその大切さを伝えていった。彼が育んだ木々は、やがて大きな森となり、訪れる人々に自然の美しさと大切さを教える存在となった。
智也の村は、遠くの町や都市からも訪問者が来るような、環境保護のモデルケースとして知られるようになった。智也はその中心で、笑顔で未来を見つめていた。ステラとの出会いが、智也と村にどれだけの変化をもたらしたのか、その証は森の緑豊かな風景として、永遠に残り続けることだろう。
教室の絵莉奈先生の一言が、智也の心に何かを植え付けた。その「環境」という種は、やがて大きな木となり、未来へと続く希望の道筋となったのだ。環境を守り続けるその姿勢は、次世代へと確実に受け継がれていく。