友情の贈り物

私の名は真也。現在もう三十を過ぎ、平凡なサラリーマンとして日々を過ごしているが、それでもふとした日常の中に魅力ある瞬間が隠れていることに気づく。今日もその一つを語りたい。


それは今から十年ほど前のこと。大学の卒業が近づき、社会に出るための準備が始まろうとしていた。友人との夜更かしやクラブ活動、図書館での自習など、忙しい日々を過ごしながらも、ふとした瞬間に何か大切なものを見落としているような感覚があった。ある日、それは突然やってきた。


その日も特に変わったことはなかった。朝から大学に行き、講義を受け、昼食を取る。その当時、私はあまり友人が多くなかった。友人というよりは、垣根のない仲間たちといったところだ。昼食も一緒に食べる相手はいなく、いつも一人で食堂の片隅に席を取った。その日は、カレーライスを注文し、静かに食べていた。


食堂には様々な人がいた。賑やかなグループ、恋人同士、そして一人で静かに本を読む人。特に目立つこともなく、私は自分の世界に浸っていた。すると、食堂の入り口から一人の女性が入ってきた。彼女は多数の中に溶け込むでもなく、ぽつんと一人でいた。そして、こちらに向かってはっきりとした足取りでやってきた。


「ここ、いいですか?」


突然の問いかけに驚いた私は、少しの間を置いてから返事をした。「ええ、どうぞ」と。彼女は微笑んで席に着くと、自分のトレイをテーブルに並べた。彼女は見覚えのない顔だったが、その穏やかな笑顔に何か親近感を覚えた。


「私は安奈です。二回生ですけど、真也さんですよね?」


思いがけない質問に、少し戸惑いを感じた。「そうですけど、どうして僕の名前を?」


「サークルの活動で一度お会いしましたよね。その時に少し話したんですけど、覚えていらっしゃらないかもしれませんね。」


その瞬間、ぼんやりとした記憶が彼女を思い出させてくれた。「ああ、はい。思い出しました。たしか、読書サークルで。」


「そう。それで、今日は一緒に食べてもいいかなと思って」と彼女は笑って言った。その笑顔は何か心を和ませる力があった。


その日以来、私たちの間には不思議な友情が芽生えた。彼女はとても聡明で、楽しい話ばかりしてくれた。私たちは毎日のように昼食を共にし、大学のささいな出来事や将来のこと、好きな本について語り合った。彼女は私にとって特別な存在になっていった。


ある日、彼女は私に言った。「真也さん、私は将来、教師になりたいと思ってるんです。」


「そうなんだ。それは素晴らしいね。でも、なぜ教師に?」


彼女の眼には情熱が宿っていた。「子どもたちに知識だけでなく、生きる力を教えたいんです。真也さんはどんな夢を持ってますか?」


その問いかけに、少しの間答えられなかった。というのも、私には具体的な夢がなかったからだ。いつもどこか無目的に生きているような気がしていた。しかし、彼女の情熱に触れた瞬間、何かが変わった。それは、自分も強い夢を持って生きていきたいと思うきっかけとなった。


彼女は卒業後、無事に教育実習を終え、地元の小学校で教師として採用された。私もその後、就職活動を経て、一部上場企業に就職が決まった。しかし、一度も彼女との連絡が途絶えることはなかった。彼女が送ってくれる手紙には、クラスの子供たちと過ごす日々のことや、教育に対する思いやりに満ちた言葉が綴られていた。


その後、私も仕事に追われ、彼女に会うことは少なくなったが、あるとき彼女から久しぶりに連絡があった。「真也さん、久しぶりです。お元気ですか?実は、今度久しぶりに会いたいなって。」


その日はちょうど、私の会社で一段落ついた時期だったので、彼女との再会を楽しみにしていた。久しぶりに会った彼女は、以前と変わらない優しい笑顔を見せてくれた。私たちは懐かしい大学時代のことや、現在の生活について語り合った。その瞬間、私は彼女が私の日常に欠かせない大切な存在であることを再認識した。


現在、彼女は結婚して二人の子供と幸せな家庭を築いている。私もまた、仕事にやりがいを見出し、日々の中で小さな幸せを感じながら生活している。彼女との再会から学んだことは、自分がどう生きるべきかを教えてくれた貴重な教訓だった。


日常の中には、見過ごしてしまいそうなたくさんの貴重な瞬間がある。それらの瞬間を見逃さず、心に刻むことが、人生を生きる上で最も大切なことなのだと、私は感じている。彼女のおかげで、私は自分の存在意義を見つけることができたのかもしれない。この日常の一片が、いつまでも鮮やかに心に刻まれている。