洋館の影

村の外れにある古びた洋館。そこには、かつて裕福な家族が住んでいたが、数十年前に不可解な事故で全員が命を落としたという噂が立っていた。村人たちはこの洋館を忌み嫌い、近寄ることさえ避けていた。しかし、若い探検者たちが興味本位でこの場所を訪れることは少なくなかった。


ある晩、五人の若者が集まって洋館へと向かった。彼らは肝試しのために、奇妙な体験を求めていた。月明かりの下、彼らは洋館の前に立ち、興奮と不安が入り混じる心境で中に入った。


一歩踏み入れると、埃っぽい空気に包まれ、周囲は暗く、薄暗いシャンデリアがところどころに揺れていた。彼らは懐中電灯を手に、館の奥へと進んでいく。壁にはかつての家族の肖像画が掛かっており、目がこちらを見つめているかのように感じられた。


「この館に何があったのか、調べようぜ」と、リーダー格のタケシが提案する。彼の言葉に、他の友人たちも頷く。手探りで進む中、彼らは広間に出ると、中央に立つ古いテーブルに目を奪われた。


テーブルの上には、色あせた日記が置かれていた。何かの示唆があるかもしれないと、ミキが日記を手に取る。彼女はページをめくりながら、昔の家族の日常や、洋館で起きた不思議な出来事の記録を読み上げていった。


「ここに書いてある、‘夜になると、何かが動き出す’って…」彼女の声が室内に響く。暗闇が一層不気味に感じられる。


その時、窓の外で何かが動く影を見たとカズマが叫ぶ。それに驚いた彼らは一斉に窓に駆け寄ったが、外は静まり返っていた。タケシが言った。「気のせいだろう。中にもっと探索するぞ。」


次の部屋に向かうと、壁には奇妙なシンボルが描かれていた。そのシンボルは日記にも見られたものと同じだった。「これ、何だと思う?」とミキがつぶやく。誰かが答えようとしたその瞬間、部屋のドアがバタンと閉まった。彼らはパニックに陥った。


「大丈夫、開けよう」タケシがドアに向かい、力任せに押したが、ビクともしない。絶望感が彼らを包む中、時折、薄暗い廊下に響くかすかな足音が聞こえた。次第に、彼らの心に恐怖が渦巻き、互いに疑心を抱くようになっていった。


「これ、ただの肝試しじゃない、何かが来ている」とカズマが怯えた声で言う。その言葉に激しく同意する者はいなかったが、確実に緊張が高まっていた。


やがて、ドアが開き、背後からは誰かの笑い声がした。誰もが振り向くと、そこには黒い影が立っていた。今まで見たこともない気配が、彼らに迫る。ミキが声を震わせながら、その影を指差した。「あれは…誰?」


「逃げよう!」タケシが叫び、友人たちは後ろへと全力で走り出した。だが、影は彼らの動きを追いかけ、次々と近づいてくる。彼らは屋敷の周りを走り回りながら、出口を探すが、全てのドアが閉じられているように見えた。その間にも、影は彼らの真後ろで迫り来ていた。


カズマが突然つまずき、転倒した。彼は恐怖で声を上げることもできず、そのまま固まってしまった。彼らは助けようと立ち止まったが、影はその瞬間に彼に覆いかぶさり、カズマは消えてしまった。


「カズマ!」タケシが叫んだが、もう彼の姿はなかった。ただ悲鳴と恐怖だけが、洋館に残った。彼らは動揺し、一刻も早くこの場所を離れようと焦る。影はさらに彼らの周囲を取り囲むように伸びてきて、出口はどんどん見えなくなっていた。


そして、再び彼らは一つの部屋にたどり着いた。そこは日記の記録から想像していたのと違い、すでに手がかりを見失っていた。どこかに脱出の方法があるはずだと懸命に探し続けるが、絶望に包まれてしまった。


タケシがふと、壁に掛けられた家族の肖像画に目をやると、彼らの目が何かを語っているように感じた。「この人たち、何か知ってる…どうすれば…」彼は壁を叩いた。次の瞬間、隠された扉が開き、真っ暗な道が現れた。


「何かあるかもしれない、行こう!」と彼は言い、友人たちを促した。急いでその道に飛び込み、脱出を目指す。


薄暗い通路を走り続けると、出口の根元に到達した。彼らは地面を掘り返し、外への光を求めた。しかし、突如として背後から重い息遣いが聞こえ、振り向くと、あの影が迫っていた。


逃げる余地は残されていない。彼らは互いに手を取り合い、恐怖で満ちた瞬間を迎えた。次々と影に飲み込まれ、彼らの叫び声も次第に消え去っていった。


数日後、村の人々は失われた若者たちの噂を聞き、洋館への恐れを新たにした。しかし、見つかったのは、ただ一つの古い日記。そこには、あの家族が残した警告が記されていた。「決して夜にはこの家に近づくな。影が動き出すから。」