日常の中の幸せ

朝の光がカーテンの隙間から差し込み、小さな部屋を明るく照らしていた。和子は目を覚ましたとき、いつも通りの静かな朝を迎えた。まだ五時半。外は静まり返り、鳥のさえずりも聞こえない。彼女は、ベッドの上でしばらく目を閉じて、何も考えずにそのままの状態でいることにした。日常の小さな幸せをかみしめるような、この静寂が彼女にとっては特別だった。


しばらくして、和子はゆっくりと起き上がり、朝の支度を始めた。三十代半ばの彼女は、毎日同じルーチンを繰り返していた。それでも、そのルーチンには心地よい安らぎがあった。洗面所で顔を洗いながら、彼女は自分の姿を見る。少しふっくらとした頬、少しだけ白髪が混じった黒髪。それでも、彼女は自分の見た目にあまり気にしていなかった。毎日やるべきことが山積みで、それに追われている毎日だったからだ。


朝食を作るために台所に立つ。卵を焼き、白ご飯を炊き、味噌汁を作る。和子の得意料理と言えば母の伝授した味噌汁だ。家族のために、毎朝欠かさず作る。その日の献立は、彼女の心の支えでもあった。炊き上がったご飯を茶碗に盛り付け、湯気の立つ味噌汁を添える。まるで小さな宴の準備をしているようだ。食卓が華やぐにつれ、和子はなんとなく嬉しい気持ちになる。


食事が終わると、彼女は子供たちを起こしに行く。小学四年生の陽太と、二年生の美咲がそれぞれの部屋から顔を出す。二人ともまだ眠たそうな目をこすりながら、和子の作った朝食をもりもり食べる姿が愛おしい。子供たちとの日常のひとときは、何ものにも代えがたい。和子はその瞬間を心に刻む。時に忙しなく、時に楽しい日々が、彼女の心の中で優しく流れていた。


仕事に向かう時間も近づいてきた。陽太と美咲を学校に送り出すため、少し急かす。二人が玄関を出て行くと、今日一日の始まりが感じられる。和子はその後、仕事に行くための準備をしながら、自分の心の声に耳を傾ける。今日はどんな一日になるのだろうか。会社での仕事は変わらないが、そこに何か新しい出来事が落ちているかもしれないという期待感が彼女を包んでいた。


会社に着くと、同僚の顔が見える。和子は笑顔を浮かべながら挨拶し、仕事を始める。デスクワークは特に変わり映えのしないものだったが、それもまた彼女にとっては安心感のある日常だった。昼休みには会社近くの公園に散歩に出かけた。会社の外で新鮮な空気を吸いながら、彼女は少しだけ日常から離れることができる。この小さな時間が、再び仕事をするエネルギーになるのだ。


夕方になり、仕事が終わった後、和子はいつも通り帰宅する。家に着くと、子供たちの笑い声が聞こえた。ふと、彼女の心が温かくなった。彼女は玄関を開け、子供たちの元気な姿を見る。リビングでは、陽太がゲームをしていて、美咲はその横で絵を描いていた。洋服は少し散らかっていたが、彼女はそれを気にしなかった。子供たちが楽しんでいる時間は、彼女にとって一番の幸せだった。


夕食の準備をするために台所に立つ。今夜はカレーを作ろうと思い立ち、和子は材料を準備して炒め始める。香りが立ち込めると、子供たちも興味を示し、リビングから姿を現した。陽太は栄養を気にしなければならない年齢になっていたが、カレーは特別な存在だった。美咲は自分で作った絵を見せつつ、カレーの具材の名前を並べ立てる。


夕食を囲みながら、和子は子供たちの成長を感じる。彼らの笑顔、些細な会話、時には喧嘩も、それらすべてが彼女の日常の一部であり、愛おしい瞬間だった。時が経つにつれて、これらの日常が彼女の人生の一部になるという確信を抱いていた。


夜になり、子供たちを寝かしつけた後、一人リビングに戻ると、穏やかな疲れが彼女を包む。日常の忙しさの中で、何気ない瞬間がどれほど貴重であるかを再確認し、和子はほっと息をつく。日々の繰り返しが、彼女にとっての幸せを紡いでくれる。明日もまた同じように日常が続いていく。しかし、彼女はそれを心から愛おしく思っていた。毎日の中に小さな幸せが散りばめられていることに感謝しながら、和子は静かに眠りについた。