笑いの種

僕の名前は、まあ、正直に言うと教えたところで、なんの役にも立たないだろう。というのも、僕はただの平凡な会社員だからだ。しかしこの話を最後まで読んでくれれば、「平凡」という言葉が実に曖昧だと気づくだろう。


何を隠そう、僕は子どもの頃から、「笑わせる」ことが大好きだった。家族や友達を楽しませるために使ったネタの数々、対比、誇張、ジョークといった技術は、今でも僕の武器だ。


学生時代には、漫談の真価を初めて実感した。クラスメイトを前に立ち、歴史の授業中に突如発作のように始めたフリップネタが始まりだった。


「みんな、歴史へようこそ。今日は『鎌倉幕府成立の舞台裏』についてお話ししましょう! ショートコントから始まりますね。」


と言って、僕はホワイトボードに「平清盛の約束表」を描き始める。


「源頼朝:領土60%」「北条政子:残り40%」「平清盛:酒・女・美食先払い」


そう、不謹慎ではあるが、クラスメイトは大爆笑。当然、先生にはこっぴどく怒られたが、それがまた僕を燃え立たせたのだ。


当然、大学でも僕のスタイルは変わらなかったが、実は大学の漫談サークルに入ったことがきっかけで、初めてステージに立つことになった。漫漫と続けたその経験は、少しずつ僕に「プロ漫談家」としての夢を見させるようになった。


だが、現実は甘くない。大学卒業後、普通のサラリーマンとして働き始めた。ここでこそ僕の真骨頂、新たな笑いの種が次々と生まれたのだ。


最初の職場では、上司の山田さんが標的だった。山田さんは「仕事命」というタイプで、休日出勤も当たり前、残業もヘッチャラ。そんな彼を見ていると、ついネタが浮かぶのだ。


「山田さん、全く寝ないんですね!伝説のモンスター、スリープレス山田!」


同僚たちはこの小さな議事録風の証拠を心底楽しんでくれた。たかが冗談かと思いきや、業務効率も上がり、ストレスも軽減。もはや僕は「オフィスの癒し担当」として、しらっとしたマンネリを一掃する腕の達人となった。


そんなある日、突然の転職の話が持ち上がった。異業種のベンチャー企業に誘われ、相談役として仕事をしながら漫談を織り交ぜる。新天地での挑戦に心が弾んだ。新しい環境での初めての漫談は、ネットワーク機器の会社での営業会議。


「皆さん、本日は感謝祭のような会議にようこそ。我々のネットワーク、もうすぐ100台突破しますが、まだ1000台残ってます。新製品バンバン売りまくって、貸し切りの温泉旅行でも行きましょう!」


会議室は笑いの渦に包まれた。おかげで議題もスムーズに進み、次回会議までのハードルも下がるという副作用も。


業界最速で成果を上げていった僕だが、数年が過ぎたある日、ふとしたきっかけで本気で「プロ漫談家」を目指す決意を新たにした。上司とも悩み苦しみつつ話し合い、ついに独立。一歩一歩ステージに夢を追い求め、今なお、活動を続けている。


おまけの話だが、結婚もして、子どももいる。最初の子どもが生まれた日に、病院の待合室で、初めて授かった命のために考えたジョークはこうだ。


「親バカでのめり込みそうです!もう命名候補は10個もありますが、その中で一番ウケた名前は『ブラザーズ』。だって、もし兄弟ができたら、もう彼らは合体技を持つ兄弟漫才でもできそうでしょ!」


妻は会心の笑顔、医師も大爆笑。これほどの幸運に恵まれるとは思いもよらなった。


この自伝はまだ途中。日々、笑いと共に新しいページを書き足している。もう一度言おう、シャボン玉がはじけるように、笑いを求めずにはいられないのだ。実に妙な、しかし実に素敵な生き方だろう?