家族と恋の力
美里は、都会の喧騒から離れた静かな田舎町にある実家に帰ることにした。彼女は仕事に追われ、ここ数ヶ月ろくに家族と顔を合わせていなかった。母の突然の体調不良を知り、心配になった美里は、急いで家を出た。
実家に着くと、母はまだ入院中で、父は忙しそうに家のことをこなしていた。美里は、しばらくぶりに見る父の背中に年を感じながら、「お父さん、大丈夫?」と声をかけた。「おう、なんとかやってるよ」と父は笑ったが、その目は疲れ切っていた。
美里は、軽い家事を手伝いながら、父に何か話しかけることにした。家族の時間が少なくなっていたことに気づいていたからだ。食事中、少しおどおどしながら「お父さん、最近どうなの?」と聞いてみた。
「仕事はまあまあかな。でも、母さんが入院してからは、自分のことはあまりできてないな」と父は答えた。その言葉に、美里は様々な思いがよぎった。父も母も、無理をしすぎることが多かった。そんな関係が、いつの間にか彼女の心の奥で重くなっていた。
数日後、美里は母が帰ってくるまでの時間を利用して、父と一緒に過ごすことにした。二人で散歩をしたり、昔のアルバムを見返したりした。過去の楽しい思い出を共有することで、父との距離が少しずつ縮まっていった。
ある晩、夕食の後、美里はふと、「お父さん、恋愛はどうしてたの?」と聞いてみた。父は笑みを浮かべ、「お前の母さんと付き合ってた頃は、毎日が楽しかったな」と話し始めた。彼の口から語られる若き日の思い出に、美里は驚いた。
「実は、最初は全然うまくいかなくてな。俺はおっちょこちょいで、母さんは気が強かったからいつも揉めてた。でも、次第にお互いを理解して、仲良くなった。恋愛は、努力が必要なんだよ」と父は自信を持って語っていた。
その夜、美里は父の言葉を何度も反芻した。「努力が必要」とは、家族の絆にも、恋愛にも共通している。自分の恋愛も、関係を築くための努力が必要だと気づいた。
数週間後、母が退院し、久しぶりに家族揃って食卓を囲むことができた。楽しい会話が交わされ、笑い声が響く。美里はその光景を目にし、自分が思っていた以上に家族の繋がりや愛情が大切だと思った。
ある晩、母が寝静まった後、美里は父と二人で静かなリビングにいた。突然、「お父さん、私も恋愛したいな」と言った。父は微笑み、「それが一番大事だ」と応じた。その言葉に、美里は安心した。
やがて、彼女は職場で出会った新しい同僚、翔と親しくなった。明るい笑顔と、穏やかな性格に惹かれ、彼との時間が心地良かった。美里は父から学んだ「恋愛は努力が必要」という言葉を胸に、彼との関係を大切に育てていった。
翔と過ごす中で、美里は自分が本当に求めていたものを見つけつつあった。彼に家庭のことを話すと、「家族との時間も大切だね」と翔は言った。彼の言葉に美里は、恋愛が単なる自己満足でなく、互いに支え合うことだと感じた。
数ヶ月後、父と母を交えて、翔を家に招いた。普段から互いの家族を大切に思っていた美里にとって、彼の家族と自分の家族との関係がさらに深まる瞬間だった。父はちょっぴり照れくさい笑いを浮かべながら、「君が選んだ相手なら大丈夫だ」と言ってくれた。
美里は翔と共に新たな家族の物語を紡いでいくことができると思うと、未来への希望が膨らんだ。恋愛は、まず自分との向き合いから始まり、その後に大切な人との関係を育むものだと感じるようになった。それは、彼女の家族の絆を再確認する旅でもあったのだ。