桜の下の約束

高校3年生の春、桜が満開の季節に、青木優は自分の人生の選択に悩んでいた。進学、就職、今後の人間関係、すべてが彼の頭の中でグルグルと巡っている。友人たちがそれぞれの夢を語り合う中で、優の心は重く沈んでいた。


ある日放課後、優はひとりで学校の屋上で桜の花を眺めていた。頭の中には「自分のやりたいことは何なのか?」という思いが渦巻いていた。そんな彼に近づいてきたのは、同級生の早川さくらだった。さくらは優の幼なじみであり、同じく真剣に進路を考えていた。


「優、何を考えてるの?」とさくらが声をかけた。優はぼんやりとした表情で「将来のこと、悩んでる」と答えた。さくらは優の横に座り、少しの間何も言わずに二人で桜の花を見つめていた。


「私、保育士になりたいんだ」とさくらが言った。「小さい子供たちと一緒に過ごす時間がどうしても忘れられなくて。でも、親が反対してる。」優は彼女の言葉に驚いた。この子はいつも明るくて、自分の夢を堂々と持っていると思っていたからだ。


「親が反対する理由は何?」優が尋ねると、さくらは少し悲しそうな表情を浮かべた。「安定した職業じゃないから、自分の人生をつまらなくするかもしれないって。」


優は考えた。夢を持つことは大切だけれど、それが周囲との摩擦を生むこともあるのだ。ふと自分の心情に気がついた。自分が選びたい道が何であれ、誰かに否定されたくないという思いがあった。


桜の花びらが風に舞い落ち、二人の周りを優しい春の空気が包んでいた。優は思い切って言った。「さくら、君が保育士になりたいのなら、応援するよ。自分の人生は自分のものだから。」


その言葉に、さくらの目が輝いた。「本当に?ありがとう、優!」彼女は優の手を握り、笑顔を見せた。


それから、優も自分の夢を見つけたいと強く思うようになった。彼は自分の趣味である絵を描くことを思い返した。子供たちの笑顔を描くことで、誰かの心に届く絵本を作りたいという夢が芽生えた。それは、彼自身が育った思い出の中にもあふれる楽しさだった。


ある夜、優は自室でスケッチブックを開いた。最初は小さな下絵だけだったが、徐々に自分の夢が具体的な形になっていくのを感じた。さくらが言った「自分の人生は自分のもの」という言葉がその背中を押してくれたからだ。


翌日、優はさくらに自分の絵を見せる決心をした。放課後、再び屋上に集まると、優は真剣な表情で「僕も、君を応援するように、自分の夢を追いかけるよ。絵本作家になりたいと思ってる」と告げた。さくらの目が驚きと喜びで輝いた。


「すごい!優って本当に素敵なことを考えてたんだね。私も負けないように頑張らないと!」二人はその日、夢に向かって一緒に励むことを誓った。


互いの夢を語り合うことで、彼らは普段の悩みも共有し、支え合うようになった。日々の学校生活も前よりも楽しく、明るく思えるようになった。そして、6月の最後の日、彼の手元には初めての絵本が完成していた。さくらも彼女の志望校へと向けた願書を出した。


夏休みに入ると、二人は町の児童館でワークショップを開いた。優は彼の絵本を読み聞かせ、さくらは子供たちと遊ぶ活動を担当した。子供たちの笑顔が見れるこの瞬間こそが、彼らの夢が現実に近づいていることを実感させてくれた。


卒業を迎えた頃、優とさくらは互いの成長を祝福し合った。これからの道は険しいだろうが、悩みを乗り越え、お互いを支えながら歩んでいく友情があった。桜の花が舞う中で、彼らはそれぞれの夢に向かう新しい一歩を踏み出す準備を整えた。


春の息吹とともに、彼らの青春は続いていく。