日常の小さな幸せ
毎日、早朝のチャイムが鳴ると、私はベッドから飛び起きる。普段は二度寝をしたい気持ちを抑えて、カーテンを開け、冬の光を部屋に招き入れた。小さなアパートの窓からは、隣のビルの屋上にいるカラスが見え、彼の一日の始まりを見守る。今日もまた、彼は冷静に周囲を見回し、私と同じように日常を始める準備をしているのだろう。
朝ごはんは、ほぼ毎日同じメニュー。トーストにバターを塗り、目玉焼きを作る。フライパンで卵がジュウジュウという音を立てると、私の脳裏には母の姿が浮かぶ。母はいつも朝食を丁寧に作ってくれた。私の好きな卵料理を、優しい声で「頑張って」と言いながら作ってくれたものだ。その記憶が、今の私の日常を彩っている。
朝食を済ませると、私は通勤の準備に入る。仕事は市立図書館での職員としての勤務。毎日、膨大な本と向き合い、来館者の質問に答える。時折、古本の匂いや、しおりの色あせた風合いに、心が和むこともある。今日もまた、少しだけ早く家を出て、図書館の開館前に本の配置を整える。静まり返った館内は、私にとっての安らぎの場所だ。
午後になるにつれて、訪れる利用者たちが増え、私は応対に追われる。特に小さな子供たちが絵本を嬉しそうに手に取る姿を見ると、ほっとした気持ちになる。子供たちの純粋な好奇心は、いつも私を元気づけてくれる。中でも、毎週決まって来る小さな女の子がいて、彼女はいつも赤いリボンを髪に結んでいた。私が本を選んであげると、目を輝かせて喜ぶその姿は、まるで私の心の中に小さな花を咲かせるようだった。
仕事が終わり、再びアパートへと帰る道すがら、私はその日の出来事を振り返る。通りがかるカフェから香るコーヒーの香りや、街角の花屋に並ぶ鮮やかな花々が、平凡な日常を少しだけ特別なものにしてくれる。家に着く頃には、すっかり夕焼けに包まれている。薄紫からオレンジに変わる空の色は、心のどこかに優しさを与えてくれる。
夜ごはんは簡単なものを作り終え、テレビをつけた。流れるニュースやドラマに目をやりながら、いつの間にか心地よい疲れが訪れる。食べ終わったお皿を片付け、少しだけ寝る前の読書の時間を楽しむ。今読んでいるのは、昔の冒険小説。ページをめくるたびに、主人公の冒険に触発され、私は彼らの世界に入り込んでいく。夢の中でも彼らと共に冒険できるかもしれないと期待しながら、徐々に目が閉じていく。
その日常の中で、私は小さな幸せや喜びを見つけることができた。通勤電車の中で見つけた人々の笑顔や、公園でのんびりと過ごす老夫婦の姿、道端に咲く一輪の花――それらは特別な日常ではないけれど、私の心を温かくしてくれる大切な瞬間だ。毎日の小さな出来事が重なり、私の人生を形作っていく。明日もまた、そんな日常が続くことを願いながら、私は夢の世界に旅立つ。