桜の下の約束

春の柔らかな日差しが降り注ぐ中、桜の木の下で中学生の健太と友梨はいつものようにお弁当を広げていた。二人は幼稚園からの付き合いで、小学校も同じ、そして今は同じ中学校に通っている。お互いにとって、切っても切り離せない存在だった。


「今日は、うちの親が変わったレシピを試してみたんだ。どうかな?」友梨は弁当箱を開けながら言った。色とりどりの野菜や、厚焼き卵、そしてなぜか小さな梅干しが緊張しながら並んでいる。


「見た目は最高だね!いただきます!」健太は目を輝かせ、お箸を持ち上げた。


友梨は少し照れくさそうに笑い、健太の反応を静かに見守る。健太は一口、また一口と食べ進める。瞬間、彼の顔が驚きに変わった。


「これ、すごく美味しい!梅干しもアクセントになってる!友梨のお母さん、天才だね!」彼は感嘆の声をあげた。


友梨は嬉しそうに頬を赤らめた。「ほんとう?よかった!でも、私も全然料理できないから、いつか健太に教えてもらえたらいいな。」


「もちろん!来週の土曜日、家に遊びに来ればいいよ。一緒に作ったら楽しいと思う!」健太は明るい声で提案した。


友梨は少し戸惑った。「でも、お母さんが仕事の日だから、大丈夫かな…?」


「大丈夫だよ!俺の母さんもいるし、きっと楽しい時間になるよ!」彼の熱意に押され、友梨は笑顔で頷いた。


その日は何事もなく過ぎ、健太と友梨は学校でのさまざまな出来事をシェアし合いながら、何気ない日常を楽しむことができた。しかし、彼らの間には小さな影が迫り来ていた。


それは、健太が目をつけていた美術部の部長、晴香の存在だった。晴香は、清楚でおしゃれな子で、生徒たちの憧れの的だった。健太はまるで彼女に夢中になっているように見えた。


ある日、友梨は学校の廊下で健太が晴香と話しているのを目撃した。彼女たちの笑顔は輝いていて、健太も自然とはじけるように笑っていた。それを見た友梨の胸の内に、何か鋭いものが刺さった。


「私も健太ともっと一緒にいたいのに…」友梨は自分の思いに戸惑った。彼女は健太に何も不満を抱いていなかった。しかし、健太が自分の心を持ち去ってしまったような気がした。彼女は彼が晴香との関係を深めることに恐れを抱いた。


そんな気持ちを抱えたまま、土曜日がやってきた。友梨は健太の家に向かい、二人で料理をすることになった。様々な食材が並べられる中、健太は興奮した口調で教えてくれる。


「野菜をこう切って、次はこれを焼くんだ。ほら、見てて!」楽しそうな健太の姿に、友梨は少しずつ笑顔を取り戻していった。


料理が進むうちに、友梨は心の重さが少しずつ軽くなるのを感じた。彼との距離感が戻ってきたように思えた。自分の中のもやもやが少しずつ晴れていくのを実感した。


「できた!友梨の分も、ちゃんと盛り付けたよ!」健太は満足そうに自信満々に出来上がった料理を見せた。


友梨は心から嬉しくなり、その瞬間に自分の中の不安が消えていくのを感じた。「食べてみるね!」彼女は一口、また一口と食べ進めていく。友梨はふと、これまでの健太との思い出や、一緒に過ごしてきた日々が心の支えになっていることに気付いた。


「健太、ありがとう。こうやって一緒にいるのが、一番楽しい。」友梨は素直な気持ちを口にした。


その言葉に健太は驚いた様子で振り向いた。「俺もだよ!いつも友梨といると、心が落ち着くし、楽しいんだ。晴香のことも大事だけど、友梨のことも忘れちゃいけないって思ってる。」


彼の素直な言葉に、友梨は嬉しさが溢れ出した。健太はこれからも自分と一緒にいてくれることを再確認した。


「これからもずっと、一緒に時間を過ごそうね、健太。それが私の一番の願いだから。」友梨は心からそう思った。そして二人の友情は、これからもずっと深まっていくことを確信した。春の陽射しの下で、二人の絆は一層強くなっていった。