兄弟の絆、永遠に

兄弟がテーマの短編小説。




私は兄治と二人三脚で育った。幼い頃から絶えず一緒に遊んできたが、兄は私の背を越える年齢に達し、次第にその存在の重さを感じるようになった。二人共、両親が働きに出ている間は、長い時間を家で過ごした。兄は勉強が得意で、私は運動が好きだ。そんな違いも、いつしか兄弟の絆を深めていった。


ある夏の日、近くの公園で遊んでいると、私たちは一つの空き家に目を付けた。古ぼけた木造の家で、周囲は雑草が生い茂り、その中に隠れるようにして佇んでいた。兄治は好奇心旺盛で、「中に入ってみよう」と提案した。その瞬間、私の心臓は高鳴った。空き家には恐怖とドキドキが混ざっている。兄が先に足を踏み入れると、私は後を追った。


家の中は薄暗く、埃が積もっていた。窓から差し込む光が、ホコリ舞う空気を照らし出す。兄は小さな声で「すごいな、誰も住んでないから自由に探検できる」と言った。私は怖がりだったけれど、兄の楽しそうな様子に少しずつ気持ちが軽くなった。


二階に上がると、数年前に誰かが忘れたらしい古いオルゴールが目に入った。兄がそれを開けると、優しいメロディが流れ出した。思わず私は笑顔になり、兄も嬉しそうに目を輝かせていた。二人でそのメロディに合わせて踊りながら、私たちは一瞬だけ現実を忘れた。


しかし、楽しい時間も長くは続かなかった。急に物音がした。私たちは動きを止め、お互いに顔を見合わせた。兄は不安な顔をして、私はますます恐怖を感じた。物音は次第に近づいてきた。どうするべきか、何も言えずにいたその時、兄が「隠れろ!」と叫び、私を押し込めてくれた物入れの中に押し込んだ。


外からは、若い男性の声が聞こえる。「あの家、絶対誰かいるだろ」と言っているのが聞こえた。心臓がバクバクし、目の前がかすむ。兄が私を守るために前に出た。どうして、こんなことになってしまったのか。兄は決して強いわけではない。ただ、私を助けようとする心があっただけなのだ。


やがて、男性は何かを見つけたようで、中を調べ始めた。私は静かに息を潜めた。兄の存在を感じ、少しだけ安心した。でも、すぐに恐怖が襲ってきた。もし兄が見つかったらどうなるのか…そんな不安が頭をよぎり、涙が溢れそうになった。


男性の声がさらに大きくなり、私たちの隠れ場所のすぐ近くまで来ていた。「おい、誰かいるのか?」という問いが耳に刺さる。この瞬間、私は自分の無力さを痛感した。その間、兄の姿は見えずずっと心配で仕方がなかった。


しばらくの静寂が流れ、やがて男性はあきらめたのか、家を出て行った。勇気を振り絞り、物入れから出てみると、兄は無事だった。顔色は悪いが、大丈夫な様子だった。私たちは互いに抱き合って安堵の涙を流した。兄の力で、私は救われたのだ。


帰り道、私たちは無言のままだった。兄は私を守るために立ち向かってくれたのだ。その姿は、ただの兄ではなく、私の大きな存在として心に刻まれた。兄がいるからこそ、私は勇気を持てたのだと気づいた。


数年後、成長した私たちは少しずつ別々の道を歩むようになった。兄は高校に進学し、私は運動部に入って活躍するようになった。しかし、あの日の出来事は私たちの絆を更に強くした。物理的な距離ができても、心の中では永遠に繋がっていると感じた。


時々、あの空き家を思い出す。兄治との冒険が私をどれほど成長させたか。彼は常に私の背中を押してくれた存在であり、兄弟との絆の大切さを教えてくれた。今振り返れば、あの時の恐怖を共に乗り越えたことで、二人の関係は深まったのだと思う。


兄弟はただの血のつながりではなく、共に経験を積み、支え合う存在だ。どんなに遠く離れても、心の中でずっと繋がっている。私たち兄弟の物語は、まだ続いている。




この物語は、兄弟の絆と共に成長する過程を描いています。恐怖を乗り越え、お互いを支え合うことで深まる絆を感じていただければ幸いです。