桜舞う約束

桜が舞い散る春の日、都心のカフェで偶然出会った二人、彩(いろは)と海斗(かいと)。彩は大学生で、文学を専攻している夢見がちな少女。一方、海斗は忙しい仕事に追われる若手社員で、恋愛にはあまり興味を持っていなかった。


その日、彩は友人との約束をすっぽかし、一人でカフェにやって来た。外の桜を眺めながら、本を読んでいると、隣の席に海斗が座った。彼はノートパソコンを広げ、仕事をしている様子だったが、次第にその目は桜の花びらに向けられた。彩は、不意に彼の視線に気づき、微笑む。ふとした瞬間で二人の距離が縮まった。


それから数日後、彩はカフェでよく目にする海斗を意識するようになり、彼に話しかける勇気を振り絞った。「あの、桜、きれいですね」。それがきっかけとなり、二人の会話は始まった。海斗は初めて出会ったとは思えないほど話しやすく、彼女の夢について真剣に耳を傾けた。


彩は海斗の優しさと真剣さに次第に惹かれていくが、一方の海斗もまた、彼女の純粋な視点や文学への情熱に心を打たれていた。だが、海斗は仕事でのストレスから、恋愛に対する自信を失っていた。次第に二人は毎日カフェで会うのが日課となり、小さな約束を交わすようになった。


ある日、彩はカフェで「海斗さん、もしまだ恋愛をしていなかったら、どんな人と付き合いたいですか?」と尋ねた。海斗は驚きつつも、自分の心の中にある理想の女性像を語り始める。「僕は、何事にも真剣に取り組む人が好きだな。情熱を持っている人、そして時々無邪気な一面も見せる人—そんな人に出会えたらいいな」と笑った。


それに対して彩は、自分の夢を追い詰めて孤独を感じることがあると告白した。二人は、少しずつお互いの弱さを共有することで、絆を深めていった。


しかし、ある日のこと。海斗は仕事の都合で遠方に転勤することが決まってしまった。彩はその知らせを受け取った瞬間、心臓が締めつけられるような感情に襲われた。彼は「出発までに一度、ちゃんと話をしよう」という約束を残して去った。


約束の日、二人はいつものカフェで再会した。海斗は申し訳なさそうに頭を下げ、彩はその姿を見て涙がこぼれそうになる。互いに言葉を交わしながらも、言葉にできない思いが心に渦巻いていた。


最後の瞬間、海斗は彩に真剣な目を向け、「君のことが好きだ、でもこの状況が変わるまで待たせたくない。だから、今は出発する」と言った。彩はそれを聞いて、何も返事ができなかったが、内心では彼を逃したらいけないと思った。


「海斗さん、待って!」と叫び、彼に向かって駆け寄る彩。その手が彼の腕に触れると、彼は一瞬立ち止まり、振り返った。彩は、涙をこらえながら言った。「私も、あなたが好き。遠くに行っても、待っていてもいい。私たちの気持ちが大事だから」


海斗はその言葉を聞いて、思わず抱きしめた。「もし、君が待っていてくれるのなら、僕も頑張れる。必ず戻ってくる」と誓った。彩の心には希望の光が灯り、二人は互いの存在を確認しながら新たな一歩を踏み出すことを決意した。


その後、彩は海斗のいない日々を過ごしながらも、彼との約束を胸に、前向きに自身の夢に向かって進んでいった。ひとりでいる時間の中で、彼を思い出しながら、彼女は強くなることを学んだ。


数ヶ月後、桜が再び咲き誇る季節になった。その日、彩はカフェの外で海斗を待っていた。時が経ち、彼が戻ってくるのを信じていた。そして、思い描いていた理想の海斗の姿が、その瞬間現れた。彼もまた、心の中に彩を抱きしめ、再会の喜びを爆発させた。


二人は改めて愛情を深め、これからの未来を共に描くことを誓った。桜の花びらが舞い散る中、ふたりの笑顔が互いに交わり、まるで運命が二人を結びつけたかのような、特別な瞬間だった。