心の道しるべ
「彼女の心の地図」
私は、長い間心に抱えていたものがあった。心の迷路とでも言うべきか。日々の生活の中で、さまざまな感情の色が混ざり合い、時折自分を見失いそうになる。そんな私の心の地図は、まるで暗い森の中にいるみたいだった。
ある日のこと、私は久しぶりに幼馴染の美咲とカフェで会うことになった。美咲は、常にポジティブなエネルギーに満ち溢れていた。彼女といると、自分の心も少し軽くなる気がした。けれど、その日はなぜか心がざわついて仕方がなかった。
「どうしたの?元気ないよ」と美咲が気づく。
「うーん、最近ちょっと考えることが多くて。自分が何をしたいのか、分からなくなってきたんだ。」
美咲は頷き、少しの間思案にふけるように黙っていた。そして、彼女は自分のカップから一口コーヒーをすすり、静かに言った。「私もそういう時期があったよ。でも、私の場合は、思い切って自分を見つめ直すことが大事だった。」
私は彼女の言葉に耳を澄ませる。美咲は、いつもポジティブな選択肢を提示してくれる人だ。しかし、私はその時、自分を見つめ直すことが恐ろしいことだと感じていた。心の奥にある不安や恐怖は、まるで触れたくない黒い影のようだったからだ。
「そうかもしれないね。でも、どうやって見つめ直せばいいのか分からない。」
美咲は笑った。「それなら、私が手伝ってあげるよ。ちょっとしたワークをやってみない?」彼女の提案に、私は驚いた。ワークと言っても、私は何も思いつかなかった。
「例えば…自分の好きなものや嫌いなものを一緒にリストアップしてみるの。そうすると、自分の価値観や本当の気持ちに気づけるかもしれないよ。」
私は少し抵抗を感じたものの、彼女の優しい眼差しに背中を押された。私たちはカフェの片隅で、紙とペンを取り出した。
「まずは好きなことから始めよう。」美咲が言う。
私はしばらく考えた後、「本を読むこと、旅行すること、友達と過ごすこと…かな」と答えた。美咲は満面の笑みでそれをメモに書き留めた。
次に、嫌いなことをリストアップする番になった。ここで私は一瞬躊躇した。自分の嫌な部分を誰かに見せるのが怖かったからだ。しかし、美咲の優しい眼差しが私を助けてくれた。「大丈夫、私もいるから。」
しばらく考えた後、私は「孤独、失敗、他人の期待に応えられないこと…」と呟いた。心の中にある暗い部分を口に出すことは、思った以上に重苦しい気持ちを伴った。
それでも、ワークを続けるうちに少しずつ楽になってきた。美咲と一緒にお互いのリストを見せ合うことで、自分の心の声に耳を澄ませることができたからだ。
「私は失敗は怖いけど、それも自分を成長させる一部だと思う。でも、他人の期待にはとても押しつぶされそうになる」と美咲が言った。
「私も…他人の期待に応えるために、自分を犠牲にしているかもしれない。」
その言葉が私の心に響いた。人は他人を気にしすぎるあまり、自分の気持ちをないがしろにしてしまうことがある。私自身も、いつからか自分の感情が二の次になっていた。
ふと、心の奥から何かが芽生えた気がした。自分のために、自分を大切にすることが必要なのではないか。それが、心の迷路から抜け出すための第一歩ではないかと思った。
「あのね、美咲。私、もっと自分を大切にしたいと思った。自分の心の声を聞いて、素直に生きたい。」
美咲は温かい笑顔を見せてくれた。やっと自分の心の地図を開くことができた気がした。どんな道が待ち受けているのか分からない。でも、少なくとも今は一歩を踏み出す準備ができた。
あの日のカフェでの会話が、私にとって心の地図を修正するきっかけとなった。美咲の存在は、私に勇気を与え、迷路の出口へと導いてくれる光のようだった。心の地図はまだ未完成だけれど、自分を大切にすることを忘れずに、これからの道を歩んでいこうと決めた。