孤独を超えて
彼女は初めての投稿を待ちわびていた。大学の文学部に在籍する菜月は、授業で教わったクリエイティブライティングの課題をほぼ仕上げていた。テーマは「問題」。それに対抗するための解決策や葛藤、そして成長を描くことが求められていた。彼女は、何を書こうかと頭をひねりながら、パソコンの前に座っていた。
深夜、静まり返った部屋に彼女のキーボードを打つ音だけが響く。菜月は、自身の過去を振り返ることにした。常に心の奥に抱えていた問題、それは孤独だった。家族からの期待や、友人との関係において、「普通」を求められることに、彼女はいつも悩んでいた。それを物語の中心に据えることに決めた。
想像上の主人公、涼は、彼女自身の分身のような存在だった。涼には、誰にでもある普通の家族がいた。両親の期待に応えようと、学校では優等生を目指し、友人との関係では常に気を使っていた。しかし、次第に彼女は自分が本当に何をしたいのか分からなくなっていた。友人たちが色々な夢を語る中で、彼女だけはその場にいること自体が辛くなっていった。
「自分を見失う」という問題は、涼にとって日常の一部となった。ある晩、涼は学校の帰り道に突然の雨に降られ、近くの公園のベンチに腰掛けた。雨音が心の叫びのように響く中、彼女は不意に涙が溢れてきた。誰かにこの孤独を理解してほしいと思いつつ、誰にも声をかけることができなかった。
次の日、学校での帰り道、涼は偶然にも同じクラスの美由紀と出会う。美由紀は明るく、いつでも元気な印象の女の子だった。彼女は涼の涙を見て、驚いた様子で声をかけてきた。「大丈夫?何かあったの?」その問いかけに、涼は思わず感情を吐き出してしまう。「私は、いつも周りの期待に応えようとして、本当の自分が分からなくなっている気がするの。」
美由紀は少し考えた後に答えた。「それなら、自分の気持ちを書いてみたらどう?思っていることを文章にするって、意外に気持ちが楽になることがあるよ。」それが、涼の人生の転機となるとは、その時の彼女は知る由もなかった。
涼は美由紀のアドバイスに従い、日記のような形で自分の感情を書き留めることにした。最初は恥ずかしさから億劫になったが、次第に彼女はその行為が心地よくなっていくのを感じた。孤独や不安を書き出すことで、彼女の心は少しずつ軽くなっていった。
ある日、涼はその日記を元に小さな物語を書いてみることにした。彼女は「失われた自分を探しに行く旅」をテーマに、主人公がさまざまな困難に立ち向かいながら、最後に自分自身を見つける話を描いた。その物語には、彼女自身の気持ちや成長、そしてあまり明るくない思い出までもが詰め込まれていた。
その作品を完成させた時、涼は初めて自分の気持ちに正直になれた気がした。彼女は投稿サイトにその物語をアップロードすることにした。公開後、彼女は緊張しながらも、他者の反応を待った。
しばらくして、コメントが届く。「あなたの物語が心に響いた。私も似たような感情を抱えている。ありがとう。」それを見た瞬間、涼の心に温かいものが広がった。「自分だけが孤独だと思っていたけれど、実はこんなにも多くの人が同じように感じているんだ。」そのことに気づいた彼女は、少しずつ自信を取り戻していった。
ナイトウと言うテーマで、新たなコラボレーションに挑戦していくことを決心した涼は、自分の気持ちや考えを同じように抱えている人たちと繋がる場を作ることを目指し始めた。彼女の物語は、やがて仲間たちを集め、更なる交流の場へと広がっていく。
こうして涼は、書くことを通して自分自身を発見し、更に他者との理解を深めることができる存在へと成長を遂げた。孤独という問題は簡単に解決できるわけではないが、彼女はその解決策の一つを見つけたのだった。そして、物語を書くことで得た経験が、彼女の人生をより豊かにしていくことを信じていた。