民の声、王の道

ある嵐の夜、古びた城が波打ち寄せる海の近くに佇んでいる。城の中では王国の重臣たちが集まり、次の王の選定を巡る激しい議論が交わされていた。王であるエドワードが突然の病で倒れ、息を引き取る寸前に、彼の口からは「真の王は民の声を聞く者だ」との言葉が発せられたという。


集まった重臣たちには、王に対する忠誠心と自らの権力を保つための欲望が交錯していた。騎士たち、貴族、そして教会の高位聖職者たちがそれぞれの意見をぶつけ合う。「血筋が最も重要だ。王族であるべきだ」と騎士の一人が主張する。「民の賢者の中から選ぶべきだ」と一人の学者が声を上げると、部屋は静まり返った。


討論の最中、城の外で雷鳴が轟き、重臣たちの意見はますます白熱していく。冷静さを失った一部の貴族たちは、裏切りを恐れてか互いに非難し合い、真の結束が失われていく。そんな雰囲気の中で、若き貴族アリスタが立ち上がった。


「皆さん、私たちは王国の未来を決めようとしています。しかし、我々は自らの私利私欲に溺れているのではありませんか?民の声が、我々の方向性を示すべきです」と静かに語るアリスタ。しかし、その言葉は最初は無視され、再び激しい討論が始まった。アリスタは自らの意見を述べ続ける。「民が選ぶ真の王こそ、我々にとっても利益になるはずです。国が繁栄すれば、私たちも安泰です!」


彼の言葉に少しの希望が見えるが、重臣たちは己の権力を手放すことに対して恐れを抱いていた。やがて、ある古老の貴族が立ち上がり、「それでは、民の意見を聞くために大集会を開くことにしよう。その際に決定を下そう」と提案した。その提案により、全ての人が集まる広場で民の意見を聞くための準備が始められた。


数日後、広場には多くの人々が集まった。農民、商人、職人、そして貴族たちも壇上に立った。アリスタは人々の前に立ち、彼らの意見を聞き、集まった人々の代表となることを決意した。


「私たちがここに集まったのは、今まさに我々の未来を選ぶためです。王様を選ぶのは、ただの血筋のみではない!知恵、勇気、そして民を思う心が必要です。さあ、皆さんの声を私に聞かせてください!」


会場は静まり、農民の一人が手を挙げた。「王は、我々庶民の悲しみを分かってくれる者でなければならない。そのためには、我々の生活を理解し、共に苦しんでくれる者が望ましい」と言った。その言葉に、共感する声が広がった。


次に、別の商人が言った。「我々はビジネスを通じてこの国を支えているのだから、経済を良くしてくれる王が必要だ。商業の自由を尊重し、富を分け与える者こそが真の王だ」。


様々な意見が交わされ、アリスタはそれらをまとめていった。重臣たちは予定していた以上に民の声が響き渡るのを聞き、肝を冷やす者もいたが、同時にその動きに感銘を受ける者もいた。


その夜、城の中では再び重臣たちが集まった。アリスタが提案した民の意見を基に議論が行われた。「王位継承において、もはや血縁のみを重視する時代ではない。我々が直面しているのは、国の運命と民の声に応える責任です」とアリスタは最後に締めくくった。


数日後、全ての重臣が集い、民が選んだ新たな王、すなわち農民の中から選ばれた人物が選出された。彼の名はトマス。トマスは誠実な心を持ち、貧しい人々の生活を理解していた。


トマスが王座に就くと、国は再生の道を歩み始める。商業の発展、農業の振興、人々の心が一つになって来ていた。それから数年後、アリスタはその様子を見つめながら思った。「一人の声が、国を動かす」と。


嵐が過ぎ去り、静寂の中で新たな時代が開かれていった。これは、真の王が民の声を聞き入れることの大切さを物語る歴史の一頁であった。