春の約束

朱音は、大学の卒業を控えたある春の日、街のカフェで一杯のコーヒーを味わっていた。彼女の心には、少しの不安と少しの期待が交錯していた。卒業後の進路や未来について考えると、胸が詰まる。そんな時、ふと視線を感じて振り向くと、同じクラスの優弥が彼女に微笑んでいた。彼はいつも明るく、周囲の誰とでもすぐに打ち解けるタイプだったが、しばらくの間、朱音のことを特別に気にかけている様子だった。


「朱音、ここにいたんだね。僕もコーヒー休憩中なんだ」と優弥が言うと、彼の指先でカップを軽くトントンと叩く。その仕草が、自然でどこか親しげに感じられた。


「今、卒業のことで頭がいっぱいなの。みんなそれぞれの道に進むし、ちょっと寂しい気もする」と朱音は言った。自分の気持ちを素直に伝えることができる相手がいるのは、彼女にとって大きな支えだった。


優弥は、朱音の言葉に静かに頷きながら、彼女の目を見つめ返した。「そうか。でも、新しい道を歩き出すことは、きっと楽しいことでもあるはず。何に挑戦してみたい?」


朱音はしばらく考えた後、小さく微笑んだ。「私は子どもたちに絵を教えることが夢なの。だから、これから美術の教員を目指すって決めたの。」


「それは素晴らしい! きっと、子どもたちにたくさんの感動を与えることができるね」優弥の言葉は心に響いた。彼女が選んだ道を祝福するかのように、優弥の笑顔は眩しかった。


その日から、朱音と優弥はカフェで何度も会うようになった。不安な卒業後の話や、お互いの趣味について語り合ううちに、いつしか彼の存在が自分にとっての支えになっていることに気づいた。優弥は、朱音の夢を応援するだけでなく、彼女自身を理解しようとする姿勢を持っていた。


数週間後、卒業式の日がやってきた。会場は人々でにぎわい、朱音は仲間たちと別れを告げるための準備をしていたが、その中でも優弥の姿を探していた。彼がいてくれることで、少しだけ心強く感じられたからだ。


卒業式が終わり、クラスメートたちと写真を撮り合いながら、朱音は優弥に連絡を取った。「優弥、どこにいるの?」


やがて、彼は人混みをかき分けて朱音の元へとやってきた。「お疲れさま!卒業おめでとう。これからの未来に向けて、頑張ってね」と優弥は真剣な表情で声を掛ける。


朱音は少し照れくさくなりながら、「ありがとう、優弥。あなたも新しい道で頑張って」


その瞬間、彼が優しく手を取ってくれた。朱音はその手の温もりに、心がドキリと高鳴った。「朱音、実は、卒業後に伝えたいことがあったんだ」


彼女の心臓が早くなって、思わず息を飲み込む。「伝えたいこと?」


「うん。僕は…朱音のことが好きなんだ。僕は君とずっと一緒にいたいと思っている。これからの未来を、一緒に歩んでいけたらいいなって」


これまでの彼の優しさやサポートが、今さらっと繋がっていく感覚がした。視界がぼやけ、涙が溢れ出そうになる。朱音は心の奥から湧き上がる感情を抑えきれず、優弥の目をまっすぐ見つめ返した。「私も…優弥のことが好き。一緒にいたい!」


優弥の表情が驚きから嬉しさに変わり、彼はにっこりと笑った。「それなら、これからも一緒にいよう。僕たちの新しい冒険が始まるね」


周りの人々が祝福する中、彼らはそのままみんなの目を気にせず、お互いの存在を大切にしようと心に誓った。その瞬間、未来の不安や孤独が消え、愛情という強い絆でつながったことを感じられた。


春の陽射しの中、二人は新たな一歩を踏み出した。そして、それぞれの道を歩みながらも、心の中には愛情の火が静かに燃え続け、いつまでも互いに寄り添うことができると信じていた。