夏祭りの恋
彼の名前は翔太、高校2年生。小さな街に住む彼は、町内で開かれる祭りの準備に追われる毎日を送っていた。彼の父親が町内の祭り実行委員を務めている影響で、翔太も幼いころから祭りの裏方を手伝い続けている。毎年、夏の祭りが近づくと、町の人たちが一丸となって暑い夏の日差しの中、準備をするのが定番だった。
今年は特に暑かった。翔太は朝から仲間たちと一緒に祭りの屋台を組み立てていたが、頭の中は好きな人のことでいっぱいだった。その彼女の名前は美咲。美咲は彼より一つ上の先輩で、祭りの神輿を担ぐチームの一員だった。彼女は明るくて、周りの人を引きつける何かを持っていた。翔太は彼女の笑顔を想像するだけで心が躍った。
午後の3時、屋台の設営が一段落したとき、翔太は屋台の陰で休むことにした。汗でびっしょりになったシャツを脱ぎ捨て、木陰で涼む。ふと顔を上げると、美咲が水を持って近づいてきた。
「翔太君、これ、どうぞ。」彼女は笑顔で水を差し出した。
「ありがとう、美咲さん。」
彼女は頬を少し赤らめながら、「頑張ってるね、いつも」そう言って、彼の隣に腰を下ろした。翔太は彼女の隣にいるだけで幸せを感じた。しかし、その瞬間、言葉が出てこなくなった。何を話せばいいのか、自己嫌悪に陥る。すると、美咲が話を切り出した。
「私、今年の祭りの神輿、特に頑張るつもりなの。みんなが喜んでくれるといいな。」
「すごいね、美咲さん。絶対成功するよ。」
その後、二人は祭りの思い出や友達の話を互いに交換した。好きな音楽や映画の話になり、話題が盛り上がる。次第に翔太は緊張感が薄れ、自然体で会話を楽しむことができた。もう少し直接的に自分の気持ちを伝えられたらいいのに、心の中で思ながらも、いざとなると口が動かなかった。
祭り当日。彩り豊かな屋台が並び、町は賑やかさに包まれていた。翔太は友達と一緒に屋台の準備を進めつつ、美咲の神輿チームの頑張りを見守っていた。彼女が神輿を担ぐ姿は、太陽の光を浴びて輝いて見えた。無邪気に笑い、他の仲間とも楽しそうに話している。翔太はその瞬間、自分の気持ちに気づいた。
「好きだ」と、心の中で何度も呟いた。だけど、言えない。祭りが盛り上がる中、彼は不安と期待に満ちていた。
夜、町の広場には、花火が打ち上げられた。人々の歓声が響き渡り、翔太はその美しい光景を目の前にしていた。すると、彼は美咲の姿を見失ってしまった。心がざわつく。その時、ふと彼女が小さな広場の隅に立っているのを見つけた。彼女は花火を見上げ、頬に光が踊るように浮かんでいた。
とっさに翔太はその方に駆け寄った。「美咲さん!」
美咲は振り返り、彼に気づくと笑顔で手を振った。しかしその瞬間、もう一つの花火が空を切り裂き、二人の目の前で美しい花を咲かせた。翔太はその瞬間を逃さず、思い切って言った。
「美咲さん、俺、ずっと好きだった!」信じられないほどの勇気を振り絞って言葉が出た。
美咲は驚いたようだったがやがて笑みを浮かべ、翔太を見つめ返した。「私も、翔太君が好き。また一緒に祭りの準備をしようね。」
翔太は一瞬言葉を失った。それでも、心の中にたしかな喜びが広がっていた。花火が次々に打ち上がる中、二人の距離は少しずつ縮まっていった。さまざまな色の光が祭りを彩る中で、彼の心も明るく照らされていた。
長い青春の一幕は、思いがけない形で幕を閉じた。しかし、翔太の心に熱い想いと共に残ったのは、彼女との新たな絆だった。夏の終わりを感じる空の下で、彼は自分の未来に一筋の光を見出した。