遠くても君を
青い空が広がる小さな街、春の訪れと共に色とりどりの花が咲き誇る中、高校2年生の美咲は、毎日の通学路で見かける一人の少年に心を惹かれていた。彼の名前は翔。いつも一人で本を読んでいる姿や、時折見せる無邪気な笑顔に、美咲はどこか特別な感情を抱くようになった。
美咲は内気で、人と話すことが苦手だったが、翔にだけはどうしても話しかけたくて、ある日思い切って声をかけてみることにした。「あの、その、本、面白いの?」緊張しながら問いかけると、翔は少し驚いた顔をしてから、穏やかな笑みを浮かべた。
「うん、これ、好きな小説なんだ。」
それから二人は少しずつ会話を重ね、距離を縮めていった。翔は本が好きで、オススメの小説を教えてくれたり、同じクラスの友人たちの話をしてくれたりした。美咲は彼と話す時間が毎日の楽しみとなり、心が躍るような気持ちを抱くようになった。
ある日、翔に誘われて近くの公園でのんびりと過ごすことになった。春の柔らかな風が吹き抜け、桜の花びらが舞い落ちる中、美咲はその日が特別な日になる予感を感じていた。そこで、翔はふいに「美咲、君はどんな夢があるの?」と尋ねた。美咲は一瞬驚いたが、すぐさま自分の思いを語った。
「私は、いつか自分の小説を出版したいと思っているの。物語を書くのが大好きだから。」
翔は目を輝かせてその話を聞き、「すごいね!ぜひ、君の本を読みたい!」と言ってくれた。その瞬間、美咲の心は嬉しさでいっぱいになり、彼に対する想いがますます強くなっていった。
しかし、美咲には一つの悩みがあった。翔が自分に対してどう思っているのか知りたかった。友達以上の関係に進むにはどうしたらいいのか、毎日考えていた。ある夜、彼女は勇気を振り絞って翔にメールを送った。
「翔、もしよかったら、今度みんなで映画に行こうよ。」
数日後、翔から返事が来た。「いいね!じゃあ、みんなで行こう!」と。嬉しさに胸がいっぱいになりつつも、美咲の中には少し不安もあった。翔が他の友達と一緒に楽しんでいる間、自分がその輪に入っていることを忘れてしまわないか心配だった。
映画の日、美咲はドキドキしながら待ち合わせ場所に向かった。翔が現れると、彼の笑顔はいつも以上に輝いて見えた。数人の友達と共に映画を楽しんだ後、なんとなく二人きりになれる時間が訪れた。
その瞬間、美咲は思い切って翔に尋ねた。「翔、私は君ともっと近くなりたい。私と付き合ってくれる?」心臓がバクバクしていた。翔は驚きの表情を見せた後、目を潤ませながら「美咲、僕も君に特別な感情を持っている。ぜひ付き合おう」と言ってくれた。
その言葉を聞いた瞬間、美咲の心は歓びで満たされ、彼の手をしっかりと握りしめた。彼女にとって、その瞬間は夢のようだった。彼と共に過ごす日々は、新たな物語の始まりだった。
二人は公園や図書館での穏やかなデートを重ね、共通の趣味である文学の世界を楽しんだ。美咲は翔と一緒にいることで、自分の夢が少しずつ現実になっていくような感覚を覚えた。彼の存在は、彼女に自信を与え、励ましになっていた。
月日が流れ、美咲は夢に向かって努力をし続け、その姿を翔も応援してくれた。しかし、ある日、翔が突然の転校を告げることになった。美咲は信じられない思いを抱え、「どうして?私たち、これからどうなるの?」と泣きそうになった。
翔は微笑んで答えた。「大丈夫だよ、美咲。場所は離れても、君のことは忘れないし、いつでも君を応援するから。新しい道を歩んでいこう。」彼の言葉は心に深く響き、彼女の肩を優しく励ましながら、新しい未来を見据える勇気を与えてくれた。
翔が去った後、美咲は彼との思い出を胸に、作家としての道を歩む決意を新たにした。彼の言葉を忘れず、いつか彼に自分の書いた本を届ける日のために、毎日コツコツと執筆を続けていった。
時が経ち、数年後、美咲はついに自身の小説を出版することに成功した。それを記念する日、彼女は翔に少しの勇気を持って連絡を取り、「私の本が完成したの。見てほしい」と伝えた。
翔は嬉しそうに返信してきた。「本当におめでとう!いつか君の本を手に取ることを楽しみにしているよ。」
彼女の心には感謝と愛が溢れ、美咲は再び新たな物語を描く決意を固めた。愛情とは、遠く離れていても、心の中で生き続けることを教えてくれた翔とのおかげだった。