村の秘密―救出劇と財宝
ある小さな村に、平和で静かな日常を崩すような事件が突如として起きた。その村は周囲を深い森に囲まれており、普段は事件などとは無縁の場所だった。梅雨の夜、村の唯一の郵便局が火事で全焼した。郵便局には多くの土地の書類や重要な資料が保管されており、火災から無事に持ち出すことができなかったため、村全体が大きな混乱に陥った。
その日、郵便局長の田中老人は行方不明となり、村人たちの間では不安と疑念が渦巻いた。事件の捜査を担当することになったのは、若手の警察官、森田刑事であった。彼は都会からこの村に異動になってきたばかりで、村人たちとの信頼関係をまだ築けていなかった。しかし、この事件を解決することで、村人たちの信頼を勝ち得ることを決意した。
森田刑事はまず、郵便局の火災現場を詳しく調べ始めた。専門家の調査だと、火元は郵便局の奥の部屋にある灯油缶であった。誰もが火事が事故である可能性を考えていたが、彼は直感的に何かが引っかかっていた。
捜査が進む中、森田刑事は田中老人の家を訪れることにした。田中家は古びた木造の家で、村の中でも一際目立つ風貌をしていた。老人の妻、さくらさんが迎えてくれた。彼女は不安そうな表情を浮かべており、突然の訪問にもかかわらず、森田刑事を家に招き入れた。
「田中さんが行方不明という話を聞きましたが、最後にお会いしたのはいつですか?」森田刑事は落ち着いた調子で尋ねた。
「昨日の夜です、いつも通り普通に食事をして、その後眠りについたのですが……」さくらさんの声は震えていた。
「不審なことがあったり、田中さんが気にしていたことなどはありませんでしたか?」
さくらさんは少し考え込んでから話し始めた。「実は、最近郵便局で妙な封筒が届くことが増えたと話していました。でも、私はあまり気にしなかったのです。」
「その封筒はどこにありますか?」森田刑事は興味深げに尋ねた。
さくらさんは少し迷った後、郵便局から持ち帰った封筒の束を見せてくれた。その中の数枚は特に目立つ様子もない普通のものであったが、一つだけ非常に不気味なものがあった。封筒には文字が書かれておらず、代わりに古びた印章が押されていた。その印章には、この村では見たこともないシンボルが描かれていた。
「この封筒を開けてもよろしいですか?」森田刑事は慎重に尋ねた。
さくらさんが頷くと、森田刑事は封筒を開封し、中を確認した。中には一枚の古い地図と短い手紙が入っており、その文章はこう記されていた。
「再び訪れし者よ、封印されし秘密が待つ。求めるものがあらば、犠牲を払う覚悟を持て。」
これを読んだ森田刑事は眉をひそめた。地図には村周辺の森の一部が詳細に描かれており、赤くマークされた地点が示されていた。
「これは何を意味しているのか……」森田刑事は考え込んだ。田中老人が何か重要な情報を隠していた可能性が浮上したが、それが何であるかはまだ不明だった。
その夜、森田刑事は地図に示された地点に向かうことを決めた。地図に従い、深夜の森を歩く中で、彼は一軒の古びた小屋を発見した。小屋は長い間放置されていたようで、周囲には雑草が生い茂っていた。
小屋に近づくと、かすかに光が漏れていることに気づいた。彼は慎重に近づき、中を覗き込んだ。すると、そこには縛られた田中老人と、見知らぬ男が立っていた。男は郵便局の火災と田中老人の拉致を計画した張本人であり、その場で森田刑事に気づかれる前に気絶させられてしまった。
翌朝、目を覚ました森田刑事は小屋の中に監禁されていた。幸いにも、彼のポケットに隠し持っていたナイフを用いて、田中老人と共に脱出に成功した。警察の応援が駆けつけ、男は逮捕された。そして、男の目的が判明した。郵便局の火事と誘拐は、村の地下に隠された財宝を手に入れるための行為だった。地図に示された地点こそがその財宝の眠る場所であり、郵便局の書類の中にその鍵となる情報が隠されていたのである。
村は再び平和を取り戻し、田中老人も無事に帰宅することができた。しかし、森田刑事は心の奥で一つ予感を抱いていた。村の歴史にはまだ解き明かされていない秘密が眠っていると。そして、それが再び日の目を見る日はそう遠くないかもしれない。