日常に咲く恋
一度体験したら忘れられない日常。それが、佐藤美咲の平凡な毎日の始まりだった。彼女は28歳のOLで、週5日、朝のラッシュアワーに埋もれた通勤電車に乗り込み、同じオフィスで同じ雑務を行う日々を過ごしていた。特別なことがない限り、彼女の日常は淡々と流れていた。
そんなある日、いつものように会社に向かう途中、彼女は目の前で倒れた男子学生を見つけた。彼の名は高橋健二、大学二年生で、試験の勉強に疲れ果てていた彼は、朝の通学途中に突然のめまいに襲われてしまったのだ。美咲はためらいなく彼を助け起こす。「大丈夫ですか?」彼はちょっとぼんやりとした表情で、彼女を見上げた。
健二のような若い男の子を前にして、美咲はどこか照れくささを感じた。「水を飲んだほうがいいですよ」と言いながら、自分の水筒を渡した。その優しさに感謝しつつ、健二は何とか立ち上がり、笑顔を見せた。「ありがとうございます。助かりました。」
その瞬間、美咲の心に何かが芽生えた。普段の日常から少しだけ抜け出してみたいと思った。彼女は、今後も健二が元気かどうかを気にしていた。数日後、思い切って連絡先を教え合うことになった。
それから2週間が過ぎた。美咲は自分から健二に連絡を取ることはなかったが、健二の方からメッセージが届いた。「先日助けてくれたお礼をしたいので、今度一緒にご飯でもどうですか?」。緊張しつつも、彼女は嬉しい気持ちでいっぱいだった。
約束の日、彼女はお気に入りのカフェに行くことにした。雰囲気が良い上に、もちろんメニューも充実している。待ち合わせの時間になると、ドキドキしながら彼を待った。
やがて、穴の空いたジーンズに白いTシャツ姿の健二がやってきた。彼はカジュアルだが、どこか清潔感があった。「こんにちは、美咲さん!この前は本当にありがとう」と彼が言うと、美咲の顔は自然とほころんだ。
彼らはお互いの好きなことや趣味について盛り上がり、笑い声がカフェ内に響いた。そんな中、美咲は自分が特別な時間を過ごしていることを肌で感じた。日常から離れ、小さな冒険をしているようだった。
しかし、美咲の心の中には不安もあった。自分の年齢や職業と、若い健二の若さでは釣り合わないのではないかと考え始めた。でも、彼の無邪気な笑顔を見ていると、そんな考えはすぐに消えてしまった。
カフェを出た二人は、街を散策することにした。夕焼けの中、笑顔で写真を撮り合ったり、アイスクリームを食べたり、ささいなことで喜び合った。そんな日常が、美咲の心を満たしていった。
だが、数日後、美咲は突然健二からの連絡が途絶えた。最初は忙しいのだろうと思っていたが、彼女の心の中に不安が広がっていく。数日が過ぎ、とうとう彼女は営みを取り戻すことができなかった。
そんなある日、料理教室の帰り道、偶然にも健二と再会した。「美咲さん!探してたんです!」彼の顔は驚きと喜びに満ち溢れていた。「どうして連絡くれなかったんですか?」と美咲が尋ねると、健二は一瞬考え込んだ。「実は、母が入院してしまって、しばらく家事を手伝わなきゃいけなくて…」
美咲の心には安心感が広がった。彼が自分の想像より優しい人だと、再確認する瞬間だった。「何か手伝えることがあったら言ってくださいね」と声をかけると、健二は嬉しそうに頷いた。
それからしばらくして、二人はより親密になり、日常の中に小さな冒険を見つけていった。美咲は、健二といることで自分に自信が持てるようになり、彼女の日常は徐々に色づいていった。
そして、ある日の帰り道、ふとした瞬間に健二が美咲の手を優しく握りしめた。「美咲さんといると、なんだか特別な気分になる」と告げると、彼女はその言葉を心に刻んだ。日常の中に潜む小さなロマンチックを、二人は再び見つけたのだった。