兄弟と春の恋
春の暖かな陽射しが街を包み込む頃、友人の結婚式のために帰省した兄の太一は、母親から「あなたのちょうどいい相手を見つけたわよ」と耳打ちされた。彼女の言っているのは、近くに住んでいる従妹の美咲だ。彼女を「見合いなんだからちゃんとした服を着てこなきゃダメよ」と言われた太一は、あまり乗り気ではない気持ちを抱いていた。
そんな彼に対して、兄弟の弟である慎一はそのことを楽しそうに聞いていた。「兄ちゃん、せっかくのチャンスなんだから、楽しんではどう?」とからかい半分で言う。慎一は、なぜか太一が彼女と出会うことを期待していた。しかし、太一は「二人で食事するなんて、全然興味ない」と言った。
それから数日後、結婚式の当日がやってきた。太一はスーツを着て結婚式会場に向かうと、美咲がすでに招待されていた。彼女は、輝くような笑顔を浮かべ、優雅なドレスを着ていた。その姿を見た瞬間、太一は思わず息をのんだ。「これは、完全に想定外だ」と心の中で呟いた。
式が始まり、太一と美咲は本来の予定通りに挨拶を交わした。しかし、太一の肩に不安の影が覆い、彼は「また母がやらかしそうだ」と気を引き締める。美咲もまた、軽い緊張を抱えながら太一と話をすることになった。
「ねえ、あなた、本当に結婚願望があるの?」と美咲が尋ねた。その問いに太一は「別にないけど、アラサーだから周りが騒ぎ始めてる」と正直に答えた。彼女は笑顔を見せつつも心のどこかで「あの太一でさえ考えるのか」と思う部分があった。
その後、披露宴が始まったが、太一は一向にリラックスできなかった。彼は美咲のことが気になりつつも、自分の気持ちが整理できていないことを実感していた。しかし、弟の慎一が近くにいて、彼が「結局、兄ちゃんって恋愛に消極的なんだね」とからかう声に何度もイライラが募った。それに対し、美咲は「でもそれが彼の魅力かもしれない」と微笑んだ。
披露宴が進む中で、太一と美咲は少しずつやりとりを重ねていく。お互いの過去、夢、好きなことなど、時間が経つにつれて距離が縮まっていった。特に、美咲が子供の頃から好きだったアニメの話題が出たとき、太一は共通の趣味を持っていることに驚いた。「え、あなたもそれ好きだったの?」と太一が目を輝かせると、美咲も「本気で語り合いたい!」とテンションが上がった。
結婚式の後、全てが終わりかと思いきや、太一は美咲との会話が楽しくなり、名刺を交換することになった。「また、連絡してもいい?」と少しドキドキしながら訊ねる太一に、美咲は笑顔で「もちろん」と答えた。
その日の夜、家に戻ると、慎一が太一の部屋に入ってきた。「どうだった?」と尋ねると、太一は「まあ、楽しかったかな」と返す。慎一は満足そうに笑いながら、余計なことを言わないように「兄ちゃん、がんばったな」と褒めてくれた。太一は不機嫌な様子だったが、内心はちょっと嬉しかった。
数日後、太一は美咲に連絡を取ることを決意した。「時間があれば、一緒にアニメを見ない?」という軽い誘いだったが、美咲はすぐに「ぜひ!」と返事をくれた。その後も二人は色々な場所で会い、次第に日が経つにつれてお互いの距離が縮まっていく。
ある日、公園でベンチに座りながら、太一は思い切って言った。「実は、君と会うのが楽しみにしてたんだ」と。美咲は驚いた表情を浮かべながらも、少し微笑んで「私も、たくさんの楽しい瞬間をありがとう」と返した。
それからも二人の関係は大きく変わり、美咲は太一に恋をし、太一もまた美咲のことが気になり始めていた。慎一もその様子を察知し、「もう兄ちゃん、付き合っちゃう気?」と笑いながら茶化して来た。太一は「まだわからない」と言いながらも、心の中で「もしかしたら……」という期待感が膨らんでいった。
ある晩、月明かりに照らされる公園で、太一は思い切って美咲に告白を決意した。その瞬間、彼の心臓はドキドキし、美咲もまた緊張しながらも目をそらさずに彼を見つめ返していた。そして、太一は深呼吸を一つして、「君と一緒にいたい。付き合わない?」と言った。美咲は一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに大きな笑顔を浮かべて頷いた。
「はい!私もずっとそう思ってた」と彼女は答えた。
これが、春の温かな陽射しの下、兄弟たちの思い合いによって芽生えた、素敵な恋の始まりとなった。弟の慎一も、その幸せを心から祝福し、兄弟の絆はますます深まったのであった。