笑福亭の恋
駅前の小さなコーヒーショップ「笑福亭」は、その名の通り笑いを愛する二人のコメディアン夫婦が営む場所だった。湿った朝の空気の中、若い男性が曇ったドアを押し開け、中に入った。
「おはようございます」
と、彼が挨拶すると、笑福亭のオーナー、陽子がカウンター越しにニッコリと微笑んで応えた。陽子はかつて舞台で漫談を披露していたが、今はこのコーヒーショップで毎朝客を迎えることを楽しんでいた。
「一杯のコーヒーとほほえみ、全部でいくら?」
そのジョークに、陽子は笑った。「コーヒーは300円、ほほえみは無料だよ。吉本さん」
吉本浩二は陽子にコーヒーを注文し、お気に入りの窓際の席に座った。今日は特別な日だった。仕事の後に会う予定がある人物がいたので、一日中ソワソワしていた。
浩二は職場でも有名な漫談好きで、どんな場面でも相手を笑わせることができた。口調もストーリーテリングも一流で、同僚たちは彼の喋りを毎日の楽しみにしていた。しかし、その一方で、浩二が気になる女性、真由美にはなかなかその魅力を伝えられなかった。真由美は同じ会社の同僚で、笑福亭での偶然の出会いが何度もあったが、いつも仕事の話で終わってしまうのだ。
「陽子さん、今日のスペシャルは何?」浩二がふと聞いた。
「今日はキャラメルマキアートと、俺の人生リセットできる薬草茶だね」と、陽子の夫の正志がキッチンの奥から顔を出して言った。
そのジョークで、浩二はふっと笑った。「じゃあキャラメルマキアートお願い。でも、もしその薬草茶が本当にあるなら、少し考えてみるかも」
正志は笑って手を振った。「お前には必要ないよ、浩二。お前の人生はすでに面白いからさ」
その日の昼下がり、浩二は仕事を終え、再び笑福亭に戻ってきた。今日はようやく真由美をデートに誘うつもりだったのだ。時間が近づき、真由美が入ってきたとき、浩二はどきどきが止まらなかった。彼女は明るい笑顔で挨拶し、カウンターの向こうで陽子たちと談笑した。
「真由美、ここだよ」と、浩二が手を振った。
「浩二さん、待たせちゃってごめんなさい」と彼女が座り、メニューを手に取った。「さて、何にしようかな?」
「今日は面白い話があるんだ、聞いてもらってもいい?」と、浩二は咳払いをしながら言った。
真由美は興味深そうにうなずいた。「もちろん!あなたの話、いつも楽しませてもらってますから」
浩二は深呼吸をし、話し始めた。
「ある日、ある若い男が駅前で自転車を探していたんだけど、全然見つからなかった。結局、おかしなことに警察署にまで行かなくてはならなかったんだ。その男は、自分の自転車がどれかもわからないくらい、頭が混乱していたみたいだね」
真由美は少し笑いながら、「それって、あなたが何か落ち着いていられない理由があるってこと?」と察して言った。
「正直に言うと、今日は君に言うことがあって、すごく緊張しているんだ」と浩二はそのまま打ち明けた。「俺は、君にデートに誘いたくて、だけど上手く言葉にできなかったんだ」
真由美は驚いた顔をしながらも、すぐに優しく微笑んだ。「デートに行くのは良いわ。でも、もう少し面白い話を聞かせてくれる?」
浩二は驚いたが、とても嬉しくて、さらに一つの漫談を始めた。「もう一つ話があるんだ。これはとても面白いかどうかわからないけど、聞いてほしい」
そして彼は、彼女が大好きだという話を一生懸命に伝え、その中でさらにいくつかのユーモアを交えた。
笑福亭の角で、陽子と正志が微笑みながらその二人を見守っていた。陽子は正志に小さく囁いた。「ほらね、浩二はいい感じに表現できたみたい」
「うん、俺たちのカフェには魔法があるからな」と正志はウィンクして応えた。
その後、浩二と真由美はよく笑福亭に通うようになり、二人の笑い声に包まれたカフェは一層明るくなった。彼らが一緒に過ごす時間は、いつも笑いが絶えず、陽子と正志もそんな二人を温かく見守り続けたのであった。
そして、ある夕方のカフェで、浩二は真剣な顔でこう言った。
「真由美、君は僕の人生に絶対欠かせない存在だ。お笑いのセンスもあり、何よりも一緒に笑っていられる時間が大好きなんだ。これからもずっと僕の隣で、笑顔でいてくれる?」
真由美も同じくらい真剣に答えた。「浩二、私もあなたと過ごす時間が大好きなの。一生一緒に笑っていける自信があるわ」
その瞬間、笑福亭は一層明るくなり、カフェ中に幸せな笑い声が響き渡った。陽子と正志はその光景を見て、互いにニッコリと笑った。
これからも二人は、笑福亭で特別な笑いの時間を作り出しながら、楽しい日々を過ごしていったのだった。笑いは、真由美と浩二の心をつなぐ最高の魔法であり、彼らの愛が深まる秘訣だった。