午前零時の謎

時計の針が午前零時を指して静かに止まった。シティホテルの一室、薄暗い灯りの下、遺体がベッドに投げ出されていた。その女性は美しいドレスを纏い、首筋に赤い痕跡を残して息絶えていた。


警部補の斉藤は、慎重な足取りで部屋に入り、周囲を見回した。警視庁の精鋭として名を馳せる彼だが、この事件は一筋縄では行かないことを直感していた。手に持ったメモは、わずかな情報しか示していない。


「被害者は、映画プロデューサーの伊藤美紀。昨夜のパーティーには多数の有名人が出席しており、全員が容疑者となり得る」と、捜査一課の部下から報告があった。


斉藤はベッドサイドの小さな時計を見つけ、それが12時で止まっていることに気付いた。「何かのメッセージかもしれない」と内心呟いた。


その時、部屋のドアがノックされた。「警部補、解析班が来ています。」ドアを開けると、白衣を着た若手の女性技官が入って来た。


「斉藤警部補、現場の状況と遺体の状態は?」彼女は熱心にノートを取り出し、メモを取る準備をした。


「被害者の首には明らかな締めつけ痕がある。死亡推定時刻は昨日の午後10時から12時の間だろう。部屋の外には扉への無理な進入の形跡もなく、内側から鍵が掛かっていた。」


若手の技官は驚きの表情を浮かべながらも、冷静にノートに書き留めた。「つまり、犯人は部屋に鍵を掛けた後、どこから立ち去ったのでしょうか?」


斉藤は天井に目をやりながら考えを巡らせた。部屋の窓は閉ざされているし、通風口も小さくて人が通れるサイズではない。「内部犯行の可能性が高い。」


「内部犯行?つまり、パーティーに出席していた誰かか、自ら犯行現場に戻り、鍵を掛けて逃げたということですか?」技官が問いただす。


「まだ何も分かっていない。だが、鍵を持っていた者は限られている。被害者自身、あるいは彼女の親しい関係者、もしくはホテルのスタッフ。」


突然、ホテルのマネージャーが部屋に飛び込んできた。「お、大変です!監視カメラの映像が消されています!昨夜の映像が全て盗まれている!」


斉藤の眉が険しく皺を寄せた。「冷静に。すぐに技術班を呼び、侵入経路を探させろ。そして、パーティーに出席していた全ての人間のアリバイを確認するんだ。」


斉藤は部下たちに指示を飛ばし、ホテルの中を捜索することになった。手がかりを掴むために、彼はまた部屋に戻り、再度現場検証を開始した。


数時間後、斉藤の部下が駆け込んで来た。「警部補、手がかりが見つかりました。被害者の鞄から、小さなUSBドライブが見つかりました。それには彼女の秘密のスケジュールが記録されています。」


斉藤は鞄からUSBを取り出し、部屋のノートパソコンに差し込んだ。ファイルを開くと、そこには驚愕の事実が載っていた。スケジュールには被害者が持つ複数の秘密の取引や、映画制作に関する機密情報が書かれていた。多くの人間が彼女を敵視する理由がここにあった。


さらに調査を進めることで、一人の著名な俳優、山本隆が怪しいと浮かび上がった。彼は昨夜のパーティーで被害者と激しく口論していたという証言があった。事件の夜、彼がホテルから出た時刻も極めて不自然だった。


斉藤は山本隆を取り調べることに決めた。彼が事務所に姿を見せたとき、斉藤はその眼を覗き込んで尋ねた。「昨日の夜、被害者と何を話していたか教えてくれ。君のアリバイには矛盾が多すぎる。」


山本はやや動揺しつつも冷静を装った。「私が彼女を殺したわけじゃない。確かに口論はしたが、事件があった時刻にはもう部屋を出ていた。」


斉藤は疑念を深めつつ、一つの質問を投げかけた。「君は彼女の秘密を知っていたのか?USBドライブについても。」


その瞬間、山本の表情がわずかに変わり、斉藤は確信した。彼は知りすぎていた。そして、警部補が最終的に証拠を掴んだ時、真実は明るみに出た。彼はUSBのデータを解析した結果、山本の名前が幾度となく出てきたのを見つけたのだ。


山本は被害者に脅され、秘密を暴かれることを恐れて、凶行に及んだ。映像を消したのも彼の仕業だった。巧妙にアリバイを作り、部屋の鍵を内側から閉めた後、隠し通路を使って逃げたのだ。


斉藤は山本を逮捕し、事件は劇的な終わりを迎えた。しかし、彼の心には一つの問いが残った。この世界にはどれだけの闇が潜んでいるのか。そして、彼はどこまでこの闇と戦えるのか。


ーーー警視庁のエース、斉藤はまた次の事件に向かう準備を整えた。そして、新たな謎に挑むのだった。