桜咲く頃の約束
姉妹の名前は美咲と桜。二人は、美しい春の桜の季節に生まれた。美咲は姉で、おっとりとした性格で、家族や友達からも愛される存在。一方の桜は、活発で少し生意気、時には周囲の期待に応えようとするあまり自分を犠牲にすることもあった。
季節は巡り、二人はそれぞれの人生を歩むことになる。美咲は大学に進学し、文学を専攻。桜は高校を卒業し、夢を追い求めて東京に上京した。桜は芸能界を目指しており、自分を売り込むためのオーディションの日々が続いていた。
時が経つにつれ、姉妹の時間は減っていく。美咲は大学の課題やサークル活動に忙殺され、桜はオーディションの合間に仕事を探し、週末しか帰れない状態だった。それでも、桜は時々帰ってくると、姉にその日の出来事を話し、ささやかな幸せを共有していた。
ある日、桜は美咲に新しく知り合った友人の話を始めた。彼の名前は修司で、彼女の夢を応援してくれる心優しい青年だった。美咲は桜の口から修司の名前を聞くたびに、胸の奥にどこか不安が募っていくのを感じた。桜に恋人ができることは嬉しいはずなのに、なぜかその感情が素直に受け入れられない。
数ヶ月後、桜から「修司と付き合うことになった」と報告を受けた日のことだった。美咲は心から祝福したが、その一方で無意識のうちに桜を失ってしまうのではないかという恐れが芽生えていた。美咲は自分の気持ちが本当の姉妹の愛情なのか、単なる嫉妬なのか分からなくなっていた。
桜と修司の関係が深まるにつれ、桜の帰省は減っていった。それでも、二人の思い出は心の片隅に残り続け、美咲はそのたびに一人きりの寂しさを感じるようになった。ある晩、美咲は自宅で一人、桜との思い出を振り返っていた。子供の頃の無邪気な笑い声、過ごした数々の春の昼下がり。ただ桜がそばにいるだけで、どれほど心が満たされていたのかを思い知らされた。
そんなある日、美咲は桜から「ちょっと会いたい人がいる」と連絡を受けた。久しぶりに姉妹が再会することに、美咲の心は嬉しさと不安で揺れていた。約束の日、美咲はドキドキしながら桜が紹介するという修司を待っていた。すると、現れた修司はなかなかの好青年で、美咲の心の警戒感も少し緩んだ。
しかし、会話が進むにつれ、美咲は修司の桜に対する接し方から自分が持つイメージとは裏腹な部分を見出してしまう。桜は修司の言うことをいつも素直に受け入れ、少し意見を言っただけで委縮してしまう。美咲はその不安を彼女の心にも感じ取り、「桜、本当に幸せなの?」と問いかけた。
その瞬間、桜の顔色が変わった。修司は少し困惑し、「大丈夫だよ。桜は僕のことを信じてる」と言ったが、美咲はその言葉が空虚に響くのを感じた。桜は自分の意志を持つことができず、ただ好きな人に合わせているように見えたのだ。
会話が終わり、桜が帰る際、美咲は彼女に静かに言った。「いつでも、何でも相談してね。あなたの幸せが私の幸せだから」。桜はひとしきり美咲に涙を流し、その後、修司に連れられて去っていった。
その晩、美咲は自分の涙の理由を考えながら、姉妹の絆とは何かを考えた。愛し合うこと、支え合うこと、そして時には厳しさを持って相手を見守ること。美咲は桜を一番良い形で幸せにしてあげたいのだと改めて思った。
数ヶ月後、桜は一時期修司との距離を置いたと聞き、少しほっとした美咲は桜を誘って一緒に過ごすことに。お互いの近況を語り合いながら、再び姉妹の絆を確かめ合った。桜はようやく自分の夢と向き合うことができたのだ。美咲はその姿に微笑みながら、自分もまた成長していることを実感し、和やかな時間を過ごした。
春の桜の季節がやって来る。二人は再び桜の花を見ながら、かつてのように笑い合う。姉妹の愛は、形を変えながらもずっと続いていくのだと、美咲は心から感じていた。