閉ざされた運命
静かな田舎町に住む中年の女性、奈津子は、最近夫の明と共に購入した古びた家に引っ越しをすることになった。家は長い間空き家で、町の人々はその家に関する怪しげな噂を囁いていた。しかし、奈津子はそんな噂を気にするタイプではなかった。
引っ越しの日、奈津子と明は、家の中の片付けを始めた。埃を被った家具や古い写真が並ぶ中、奈津子は一つの古い木箱を見つけた。その箱は鍵がかかっており、開けることができなかった。好奇心に駆られた奈津子は、明に頼んで箱の鍵を探してもらった。
明が一生懸命鍵を探している間、奈津子は家の中を更に探索した。すると、地下室への梯子を見つけた。そこは暗く、冷たい空気が漂っていた。奈津子はしばらく躊躇したが、好奇心に勝てずに地下室へ下りていった。
地下室は不気味だった。壁には古い新聞の切り抜きが貼られており、地元の若者が行方不明になったという記事が目を引いた。暗闇の中で目を凝らすと、新聞の下には薄い血の跡が残っているように見えた。奈津子は気持ち悪さを覚え、急いで階段を上がった。
明が鍵を見つけたとの報告が入ったとき、奈津子はその木箱が気になってたまらなかった。奈津子は明に頼んで一緒に木箱を開けることにした。木箱の中には古びた日記が入っていた。日記にはかつてこの家に住んでいた女性の恐ろしい体験が細かく記されていた。その内容は、この家で起こった数々の失踪事件や、不穏な出来事だった。
日記の最後の方に、奈津子はある一文に目を留めた。「彼はいつも私を見ている。彼が来るのは夜の7時だ。」その瞬間、奈津子の背筋が凍るような感覚が走った。彼女は当日、暗くなる前にこの家を出ることに決めた。
しかし、夕方6時半になり、明が「せっかくここまで来たのだから、夕食を作ろう」と言い出した。奈津子は渋ったが、彼の誘いを断れずにキッチンに立った。「でも、7時には出ようね」と付け加えた。
料理をしながら、奈津子は僕のことを思い出した。彼女の周りには何かがおかしいという感覚が続いていた。時計の針が7時を指す頃、ふと窓の外に目をやると、一瞬、何か黒い影が見えた。驚いて辺りを見渡すが、何も見えない。ただの風かと思ったが、心の奥がざわついた。
明が「おい、奈津子、早く食べよう」と呼んだ。彼女は不安を抑え、食卓についた。食事をしているうちに、奈津子は何度も外を確認した。明の話し声が遠く感じ、彼女は自分の心拍の音だけが大きく聞こえた。
7時が過ぎた頃、再び時計を見上げると、まるで周囲の空気が変わったように思えた。不気味な静けさが家を包み、明が何かを言おうとしたその瞬間、ドアが激しくノックされた。奈津子は思わず身震いし、明も一瞬驚いた様子でドアの方を見た。
「誰だろう?」と明が言うと、奈津子はかすかに「出ない方がいいわ」と言った。しかし、彼は「大丈夫だろう」と言ってドアを開けた。
そこに立っていたのは、外見がぼろぼろの男性だった。彼は冷たい目をしており、無表情で何も言わず絡みつくように奈津子を見つめていた。明は驚いて後ずさり、奈津子も恐怖で動けなかった。男性は次第に近づいてくる。
そのとき、奈津子の中で日記の一文が蘇った。「彼はいつも私を見ている。」
奈津子は本能で明を引き寄せ、素早くドアを閉めた。明は何が起きたのか理解できずに彼女を見つめたが、彼女は「出て行くわ、すぐに!」と叫んだ。そのとき、背後からドアが叩かれる音が聞こえた。このままではいけない。奈津子は地下室の存在を思い出し、逃げるために地下室へ急いだ。
階段を下りていくと、暗闇の中で不気味な感覚が取り巻いていた。明も追ってきたが、登ることをためらっているようだ。奈津子はかすかに真っ暗な空間に目を凝らし、何かを感じ取ろうとした。
次の瞬間、何かが背後で動いた気配がした。振り返ると、暗闇の中からあの男性の顔が見えた。奈津子は恐怖で逃げようとしたが、明が彼女の手をつかみ、無理に引き戻した。二人はいまや出口を失ってしまっていた。
地下室の壁には、失踪した若者たちの写真が、まさに目の前に迫っていた。奈津子はそこで、日記の意味するところを理解した。彼らは皆、この地下室で何か悪しき運命に囚われていたのだ。
奈津子は再び目を覚ますと、彼女の周囲には青白い光が灯っていた。明の姿は見えず、彼女は地下室で一人立ち尽くしている。耳を澄ませると、かすかに誰かの声が聞こえた。「出ない方がいい…。」
恐怖に満ちた目で周囲を見回すと、地下室の奥にもう一つの木箱が見えた。それは、さまざまな古い日記や失踪者の名前で満たされているように感じられた。奈津子は逃げ道を失い、恐怖のあまり心が震えた。
再びあの男性の冷たい目が彼女を見ていた。そして彼はゆっくりと近づいてくる。奈津子はこの家から出られないことを悟り、絶望の淵に沈んでいった。彼女の中には、自らの運命を呪うような気持ちが芽生えていた。彼女はもはや、この家に隠された真実と共に、永遠に閉じ込められる運命なのだと。