青いジュースの奇跡

僕の日常は、平凡そのものだ。コンビニのレジ打ちをして、家に帰ってあるだけのご飯を食べ、テレビを見て寝る。それだけだ。だけど、そんな日常の中にも、忘れられない瞬間がある。


ある夏の日のことだ。夜勤を終えたばかりで疲れ切っていた僕は、駅のホームで電車を待っていた。照りつける太陽がホームを焼き尽くし、大気がざわめくような感覚がする。その中で溶け込むように立っていた僕は、一瞬だけこの暑さから逃れたいと思った。


電車が到着するまでのわずかな時間を利用して、ホームの自販機で冷たい飲み物を買おうとした。自販機の前に並ぶ人々の顔は、皆どこか同じような疲れ顔をしていた。僕の前に並んでいたは、小学校の制服を着た少女だった。灼けるような暑さの中、その少女は笑顔を浮かべていた。


「青いジュースのうち、どれが美味しいかなあ?」その少女は、一緒にいた母親に向かって尋ねた。


母親は優しい声で、「どれも美味しいと思うけど、ミュウは何色が好き?」と答えた。


少女は自販機を見つめて、青いボトルを指差した。「これにする!」と言って、硬貨を自販機に投入した。その様子を見ていた僕は、無意識に自分も同じジュースを買いたくなった。


ジュースがでてくると、少女はその青いボトルを見つめ、嬉しそうに口をつけた。その表情に釣られ、僕も冷たいジュースを手に取り、一口飲んだ。驚くほど冷たくて、喉を滑り落ちる感じが新鮮だった。灼熱のステージから一瞬で離れ、その冷たさが僕の日常を僅かに彩った瞬間だった。


その日、家に帰ってからも、その青いジュースの味が頭から離れなかった。冷蔵庫の中には、何本もそのジュースを買い足した自分がいた。それからは、夜勤明けにもかかわらず、その青いジュースが日課となった。それは今までに感じたことのない、ちょっとした楽しみだった。


日常の中でも、ちょっとした変化が心に与える影響は大きい。それが、たかがジュースのことでも、気持ちが軽くなり、心が弾む。それを教えてくれたのは、あの少女だった。彼女の笑顔が、僕にとっての日常を再定義したのだ。


数週間後、また同じような暑い日に、駅のホームでその少女と再会した。彼女はまた、母親と一緒に青いジュースを手にしていた。次の一瞬、彼女がこちらを見て、「おじさんも、また青いやつ飲んでる!」と笑顔で言った。


驚いたのと同時に、なぜか胸が温かくなった。その時、僕はその少女に「ありがとう、君のおかげでこのジュースのファンになったよ」と言いたかった。でも、それは言葉にできなかった。ただ、僕は彼女に微笑むしかなかった。


少女は母親に手を引かれて、駅の構内で消えていった。その背中を見送りながら、僕はこれが何気ない日常の一部なんだと感じた。平凡な生活の中にこそ、特別な瞬間がある。それが僕の日常なんだ。


そんなことを考えるようになってから、僕は日々の平凡さもちょっと変わって見えるようになった。コンビニのレジ打ちも、家に帰って食べるあり合わせのご飯も、テレビのくだらないバラエティ番組も、そのすべてが特別な瞬間に思える。


今でも、僕はあの青いジュースを飲み続けている。そのたびに、駅のホームで出会ったあの少女の笑顔を思い出す。それが、僕の日常に彩りを加える瞬間だった。


この平凡な日々が続く限り、また特別な瞬間が訪れることを期待している。それが僕の生き方であり、僕の自伝だ。