満月の儀式
彼女は静かに町を歩いていた。雨上がりの夜、路面には街灯の光が反射してキラキラと輝いていた。この町はいつもと変わらず静かだったが、彼女の心の中には不安が渦巻いていた。彼女の名前は陽子、最近数人の行方不明者が出ているという噂が町を駆け巡っていたのだ。
陽子は友人の圭介がその一人であることを知っていた。彼はいつもと変わらぬ姿で町を行き来していたが、先週、友人と約束したカフェに現れなかった。それからまもなく、彼の家族からも連絡が途絶えたと言う。陽子は警察に相談したが、「自分の意思で出て行った可能性が高い」と取り合ってもらえなかった。
彼女は自ら真相を探ることを決意した。まず向かったのは、圭介がよく通っていた書店だった。店主の田中はいつも穏やかで親切だったが、その目はどこか影を落としていた。陽子は彼に圭介のことを訊いた。
「圭介くん、一週間くらい前に来たが、なんだか不安そうだった。何か悩んでいるように見えたよ。」
田中の言葉に陽子は胸が締め付けられた。圭介が何かに悩んでいたのかもしれない。その後、助けになりそうな情報を求めて、陽子は町の古い噂を思い出した。何年か前に、近隣の森で未解決の事件があったことを。
彼女は翌日、朝早くからその森に向かうことにした。少し不安な気持ちを抱えながらも、彼女は圭介に何が起こったのかを知りたい一心だった。森は静まり返り、風の音だけが耳に残る。陽子は圭介の声が聞こえてくるような気がして、心の奥で彼を感じていた。
歩き続けるうちに、陽子は以前の事件の現場にたどり着いた。そこには、何かが埋まっているような違和感を感じる場所があった。彼女はその辺りを掘り返してみることにした。手がかりになるものが見つかれば、と。
しばらく掘っていると、小さな箱が現れた。箱は古びていて、鍵はかかっていないようだった。驚きと期待の中で陽子は箱を開けた。中には何枚かの写真と、一通の手紙が入っていた。
手紙には「私がこの町から消える理由」を書いた若い女性の文がつづられていた。その女性は過去に行方不明となった一人で、写真には彼女の笑顔があった。陽子はその女性が圭介や他の行方不明者とかかわりがあると感じた。その手紙の中には、町の裏側で行われている秘密の儀式についての記述があった。「満月の夜に行われる。選ばれた者のみがその真実を知る」と。
陽子はすぐにその夜の満月の日を思い出した。圭介が最後に姿を消す直前に満月があったのだった。彼女は急いで戻り、町に戻ると、町の築70年を超える廃工場がその儀式の場所だと聞いていたことを思い出した。私はそこへ行くしかない。
暗い工場の中は冷たい空気に包まれていた。静まり返った空間に突入する心は不安でいっぱいだった。しかし、真実を知りたい一心で足を進めた。奥に進むと、小さな明かりが見えた。そこには異様な光景が広がっていた。何人かの人々がゆらゆらと踊り、中央には一つの祭壇があった。祭壇の上にはいくつかの人影が見え、圭介の姿もその中にあった。
「圭介！」陽子は声を上げたが、誰も気に留めない。目の前の祭壇に彼らが夢中で囚われているのを見て、陽子はすぐに圭介に近寄ろうとした。しかし、周りの人々が彼女を取り押さえようとした。その瞬間、陽子は圭介の目が闇に沈み、何もかもに無関心のように見えるのを感じた。
「彼を離して！」陽子は叫んだ。すると、儀式を執り行うリーダーの男が振り返り、彼女をじっと見つめた。「お前も選ばれてしまったのだな。」
その言葉に、陽子は事の重大さを実感した。彼女は今、選ばれた者として祭壇の上に立つべき運命を強いられているのだった。圭介や行方不明の人々がこの儀式に囚われ、彼らの魂が奪われていた。彼女はこの町を救うため、圭介を救うために戦うことを決めた。
陽子は立ち上がり、集まった人々に向かって叫んだ。「この町の人々を返してください！」その瞬間、周囲の人々が影のように動き出し、圭介も朦朧とした意識の中で彼女の声を聞いて目を覚ます。
「陽子！」彼の声は希望と共に彼女の心の中に響いた。彼女の訴えによって、かつての仲間たちが少しずつ目を覚まし、解放されていった。やがて、町の人々はその呪縛から解き放たれ、陽子と圭介も共にその場を後にした。
彼らが工場を出る時、空は薄暗い霧に包まれていたが、陽子は確信していた。彼らの戦いは始まったばかりだ。これから、この町を再び明るい未来に導くための真実を追い求め続ける、そう決意を新たにするのだった。
