選択の時の道

時は昭和30年代、日本の田舎町。物語の舞台は、静かな山間に広がる小さな村だった。村には、一度も外の世界を見たことのない人々が住んでおり、世代を超えて伝えられる古い伝説が日常を彩っていた。その中でも、一番の恐怖とされていたのが「時の抜け道」と呼ばれる場所であった。


村の人々は、その場所に近づくことを禁じられ、そこに足を踏み入れた者は二度と帰ってこないと噂されていた。若者たちは好奇心を抱きつつも、恐れから近づかない。しかし、ある夏の日、村に住む高校生の新田は、友人たちと共にその伝説の真相を確かめることに決めた。


新田とその仲間たちは、午後の陽射しを浴びながら山を登り、伝説の場所へ向かう。到着すると、目の前には不気味な森が広がっていた。そこには、薄暗い木々が生い茂り、まるで時が止まっているかのような静けさがあった。新田は恐れを感じながらも、仲間たちの視線を気にして先に進む。


森の奥で、彼らは一つの古びた神社を見つけた。そこには、赤錆びた鳥居があり、神社の前には不気味な石像が立っていた。新田はその石像を触ると、ふと石像の表情が陰るのを感じた。その瞬間、周囲の空気が変わり、彼らはどこか異次元に迷い込んだような感覚に襲われた。


突然、目の前に一人の老人が現れた。髪は白く、目は深い皺で覆われている。老人は彼らを見つめ、「時を映す者が現れた」と言った。その言葉に、仲間たちは驚嘆した。「我々の村で何を求めているのか?」と老人は問いかけた。新田は裏腹の恐怖に飲み込まれそうになりながらも、勇気を振り絞って答えた。「私たちは、この伝説の真実を知りたいのです。」


老人は微笑みながら、彼に向かって手を差し出した。その指先からは暗い光が発せられ、新田の視界はぼやけ、次の瞬間、彼は村の昔の姿を映し出された。村は賑やかで、活気に満ちていた。人々は笑い声を上げ、子どもたちが遊び回っている。そこには、彼の曽祖父や祖母、そして忘れかけていた過去の記憶があった。


新田はその光景にしばらく見入った後、再びその視界が変わり、今度は未来の村の姿が映し出された。村は荒廃し、誰もいない寂しい場所となっていた。こうして時を行き来する中、新田は「時の抜け道」が実際にはその人の選択を映し出し、未来を変える力を持つことを理解した。


しかし、現実に戻ると彼の仲間たちは消え失せており、ひとりぼっちになってしまった。新田は急に不安にのまれ、急いで神社を出た。心の中で仲間たちの無事を願いながら山を駆け下りたが、村へ近づくにつれ、嫌な予感が募る。


村に着くと、村人たちの様子がまったく変わっていた。笑顔は消え、誰もが無表情で、新田の存在に気づくこともなかった。彼は友人たちがいないことに気づき、恐怖が彼を襲った。村の中を駆け巡り、ようやく一人の年配の女性に出会った。彼女は、新田を見つめ、「お前も行ってしまったのか」とつぶやいた。


その言葉に、新田は全てを理解した。彼は時間を移動したが、仲間たちはそれに伴って消えてしまったのだ。絶望的な気持ちで村をさまよう新田は、老人に会いに神社へ戻る決心を固めた。


再び神社の前に立つと、青い空の下、あの日の老人が微笑んで待っていた。「選択は常に現実を変える」と言う言葉に、新田は問いかけた。「私は仲間たちを取り戻せるのか?」


老人はただ静かに頷いた。「お前が選ぶことが、すべてを変える。」その瞬間、新田は内なる力を感じた。彼はもう一度、時間を遡ることを決意する。仲間たちと笑い合ったあの場所へ戻るために。新田は神社の石像を触り、深い息をついた。


再び、村の賑わいが広がり、彼の目の前には友人たちが姿を現した。彼らは互いに笑い合い、無邪気な表情で駆け回っている。新田はその光景に何度も何度も目をこすった。


映し出された過去から抜け出し、再び『時の抜け道』を通り、彼は失われた時間を取り戻した。彼らはこの村でどんな選択をするのか。新たな未来が、彼らの手の中で待っていた。