青春の桜陽。
放課後の教室。夕日が窓から差し込み、教室全体を暖かいオレンジ色に染めている。机の上には散らかったプリントとノート、そしていくつかの部活動の道具が無造作に積み重なっている。その中で、私は静かにノートを開き、今日の授業ノートをまとめていた。
突然、教室の扉が開き、足音が響いた。顔を上げると、そこには学年トップの成績を誇る、藤井翔太が立っていた。
「おお、まだ残っていたんだね、佐藤。」藤井がにっこり笑いかけてくる。
「うん。ちょっとノート整理してたんだ。何か用事?」私は軽く手を振り、笑顔で応じた。藤井とは同じクラスメイトであり、席も近いが、それほど親しくはなかった。それでも、彼の魅力的な笑顔は誰に対しても感じのいいものだった。
「実は、ちょっとお願いがあってね。」藤井は少し照れた様子で、その場に立ったまま言った。
「お願い?」
「うん。この前の数学の課題、どうしてもわからないところがあって。先生に聞くのも時間がかかるし、佐藤なら教えてくれるかなって。」
そう言うと、藤井はデスクに自分のノートと教科書を広げた。私は驚いた。藤井ほどの成績優秀者が、私になんて教えを乞うとは考えたこともなかった。
「もちろん、いいよ。どこがわからないの?」私は喜んでノートを閉じ、彼の隣に席を移した。
藤井との距離が近くなると、なぜか胸が少しだけドキドキする。彼の近くにいると、彼の存在感というか、オーラのようなものが強く感じられるのだ。
「ここなんだけど、この関数の解き方がいまいちわからなくて。」
彼が示した問題は、少し難解なものであったが、私は一所懸命に説明を始めた。藤井も真剣な顔で聞いてくれる。そのやり取りの中で、次第に私は自分自身が彼の思いに触れているような気持ちになる。
「ありがとう、佐藤。なんだか、君に教えてもらうとすごくわかりやすいよ。」
「そう?それならよかった。」私は少し照れくさい気持ちになりながらも、ふと藤井の目を見つめた。その時、彼の瞳の中に一瞬のためらいが見えたような気がした。
「佐藤…よければ、また一緒に勉強してくれないかな?その…今回はただの勉強のためじゃなくて、もっと色々、君と話したいことがあるんだ。」
藤井の言葉に、私は一瞬の思考停止に陥ったが、その言葉の意味を理解すると、胸が熱くなった。
「もちろん、いいよ。でも、何か特別な理由でもあるの?」
「実は…君が好きなんだ、佐藤。ずっと前から、君のことが気になってた。でも、なんて言っていいかわからなくて…だから、つい勉強を口実にしてしまったかも。」
藤井の告白に、私は驚きと喜びが入り混じった感情を覚えた。まさか、自分がこんなに感じやすいとは思わなかった。
「私も好きだよ、藤井。君のこと、ずっと尊敬してたし、話すたびにもっと知りたいと思ってた。」
その言葉を聞くと、藤井の顔に笑顔が広がった。そして、お互いに少し照れくさいながらも、自然な感じで話を続けた。
その後も、私たちは何度か勉強会を開き、その度に少しずつ距離が縮まっていった。それはただの勉強ではなく、心と心を繋ぐ大切な時間となった。
季節が巡り、桜の花が咲き誇る春が訪れる頃には、私たちは一緒に公園のベンチに座り、未来について語り合っていた。
「こんな風に、一緒にいられる時間がずっと続けばいいな。」藤井が桜を見上げながら言った。
「そうだね。でも、この瞬間だけでも、私はとても幸せだよ。」
お互いに手を握りしめながら、その時の風景と共に、私たちの心には確かな青春の思い出が刻まれた。