偶然の愛の午後

アキラは朝から忙殺されていた。というのも、彼の働く出版社は年末進行の真っただ中であり、次々と届く原稿や校正の依頼が山積みだったからだ。昼食を取る時間すらもまともに取れず、デスクに積まれた書類の山を眺めながら、ため息をつく時間だけが唯一の休憩だった。


「あーもう限界。美香さんでも一緒にランチ行けたらなぁ」と、アキラは密かに片思いをしている同僚の美香を思い浮かべた。


その美香もまた、同じフロアで忙しそうにしていた。アキラも美香も、入社から今まで4年間、同じ職場で働いていたが、仕事が忙しくてプライベートの会話を交わすことは少なかった。そんな中でも、二人は絶対的に信頼し合う仕事仲間だった。


午後の仕事が一段落ついた時、アキラは突然のメールを受け取った。送り主は美香だった。


「ランチタイム? もし時間あるなら、一緒に行かない?」


アキラは驚いたが、すぐに返信した。「もちろん! どこで? 何時に?」


彼女からの返信はすぐに届いた。「会社の近くのカフェで。午後1時にどう?」


アキラは心の中でガッツポーズをとり、お昼までの時間を過ごすことができた。


定刻1時、アキラは早めにカフェに到着し、美香を待っていた。彼女も時間通りにやってきた。


「お待たせ、アキラ君。忙しい中、時間を割いてくれてありがとう」と美香は微笑んだ。


「いやいや、美香さんに誘ってもらえるなんて光栄だよ」とアキラは照れくさそうに返事をした。


二人は注文を済ませると、アキラは思い切って聞いてみた。「何か特別な話があるの?」


美香は少し照れた表情を浮かべながら答えた。「実は、アキラ君に相談したいことがあるの」


「相談? 俺でよければ何でも聞くよ」


美香は深呼吸してから言葉を紡いだ。「実は、来月から海外の支社に転勤することになったの。突然の話で、ごめんなさい」


アキラは驚き、そして一瞬にして胸が痛んだ。「そ、そうなんだ……おめでとう! でも、それは僕に相談したいこととは関係ない?」


美香は苦笑しながらもアキラの目を見つめた。「それもあるけど、本当は、もっと前から言いたかったことがあるの」


「言いたかったこと?」アキラの胸は高鳴った。


「アキラ君、実はずっと前からあなたに……好きでした。けど、タイミングが悪くて言えなかった。今しかないと思って、勇気を出して言いました」


言葉を失ったアキラは、しばしの間美香を見つめた後、ようやく言った。「俺も……実はずっと君のことが好きだった。でも、忙しさにかまけて言えなかった」


二人は笑顔で言葉を交わし、互いの気持ちを確かめ合った。愛情というものは伝えるタイミングが難しいものだと、二人は改めて感じた。


その夜、二人は仕事を終えてカフェで再び会うことにした。未来のことや新たな仕事の話、そして何よりもこれからの関係について話し合った。地理的な距離は二人を引き裂くことはないと信じていた。


そして、アキラは決意した。「僕も君の後を追って海外へ行くよ。辞める覚悟もある。君と一緒にいたい」


美香はその言葉を聞いて涙ぐんだ。「本当に? 信じてるね」


こうして、アキラと美香の日常は新たなステージへと進んだ。仕事の忙しさに、愛情という新たなスパイスが加わったことで、二人の人生はますます活気づくこととなった。