兄弟の演技

兄弟の彼のことを考えると、いつも口元がほころぶ。高校生の真治は、俳優志望の兄・健太の影響で、彼をモデルにしたキャラクターを創るのが好きだった。健太は自由で魅力的で、女の子からもモテる存在。彼の目の前にいると、自分がどれだけ普通で退屈な存在かが痛いほどわかる。


ある日のこと。珍しく健太が家に帰ってくると、真治は自分が参加する予定の文化祭での演劇の話をした。真治が書いた台本は、兄弟の関係を描いたもので、仲を深めようとする兄弟と彼女との三角関係を描いている。すると、健太は笑顔で言った。「真治、その役、俺がやってやろうか?」と。


真治は最初は驚いたが、兄が演じることで、よりリアルになった演技ができるかもしれないと思った。快諾し、文化祭に向けた準備が始まった。その日から毎日の練習に健太が参加してくるようになると、真治の心の中で何かが変わっていった。


練習は順調に進むが、いくつかのハプニングもあった。ある日、練習中に健太が台本のセリフを間違え、真治がどうしてそんなことをするのかイライラが募った。その時、健太が冗談交じりに「俺は俳優だから、演技の一環だよ」と言った。


真治は、そんな兄の冗談が癪に障った。彼は真剣に演じろと彼を叱りつけた。もちろん、健太は意に介さず、逆に真治の情熱を面白がっている様子だった。その後も、小さな口論が時折起こるが、そんな兄弟の微妙な関係性は、演技の中で次第に溶け合っていった。


文化祭の日、真治は緊張しながら舞台の裏で待機していた。健太は自信満々に舞台へと進み、真治も彼を見つめながら心を落ち着けようとしていた。役に対する真剣さ、兄弟の絆、そして少しの嫉妬。それが舞台の上で融合したとき、真治は思わず涙が出そうになった。


二人が舞台に立ったとき、観客の反応は意外にも良好だった。健太の演技は圧巻で、役柄に見事にはまり、まるで実際のことのように見えた。真治も圧倒されたが、同時に兄への感情が胸に広がっていくのを感じた。


演技が終わった後、二人は舞台の裏で抱き合った。真治は兄のことをもっと理解したいと思った。健太の自由さ、負けず嫌いなところ、そしていつも自分を心配してくれるその優しさ。心の中にある感情を言葉にできないまま、真治は兄に恥じらいを感じていた。


文化祭が終わり、健太は次の映画オーディションで忙しくなった。真治もまた、学校生活に戻り、彼の書いた台本が学校内で話題になっていることを知り、嬉しく思った。そして、徐々に健太との距離を感じるようになった。


ある晩、真治が部屋で考え事をしていると、ふと兄がやってきた。「さっきオーディションの結果が出たんだ」と告げ、健太は不安そうな顔をしていた。「落ちたよ、また」と呻くように言った。その瞬間、真治は兄への想いが爆発した。


「健太、俺はお前を尊敬している!お前の演技は最高だった。それにもかかわらず、落ちたからってお前の価値が下がるわけじゃない」と叫んだ。その言葉は真治自身のためでもあった。


健太はしばらく静かに考えていたが、やがて微笑んで「ありがとう、真治。お前がいてくれてよかった」と言った。二人の距離がより近くなった瞬間だった。


こうして兄弟は、お互いの存在を認め合いながら、成長していくことを決心し、大切な絆を築き続けた。健太がどんな道を歩んでも、真治は彼を支えると決めたし、健太もまた、弟の成長を応援し続けるとそれぞれ心に誓った。そして、仲の良い兄弟の姿勢を通して、少しずつ二人の間にロマンティックな思いが芽生えていった。それが、これからどんな未来につながるかはわからなかったが、二人にはそれが楽しい冒険だと思えたのだった。