青春の約束
「あの日の約束」
桜の木が満開になる春、学校の新学期が始まった。教室に入ると、友人たちの顔が見え、賑やかな笑い声が響く。特に一際目を引くのは、同じクラスになった田中亮介。彼は優しさと明るさを兼ね備え、女子たちの憧れの的だった。そんな彼の姿を見て、鈴木真実は、胸が高鳴る思いを隠せなかった。
真実は内気で、どちらかというとおとなしい性格だったが、何故か亮介のそばにいる時だけは、緊張感が消え、自然な自分を見せられる気がしていた。彼の笑顔には、不思議な魔法があると感じていた。
春が過ぎ、初夏の頃、学校の校外学習でみんなでピクニックに行くことになった。真実が参加できると知って、友人たちは彼女を少しからかった。「亮介のこと、好きなんじゃない?」そう言われるたびに、真実は赤面し、どうしようもない気持ちがのしかかる。
ピクニックの日、真実は心臓が高鳴り、普段よりも少しお洒落をして家を出た。まるで初デートを前にした少女のように。広い公園に着くと、色とりどりの子供たちが走り回り、笑顔があふれていた。みんなは芝生に座り、ランチを食べ始める。
その時、亮介が真実の側にやってきた。「鈴木さん、ここいいよ。隣に座ってもいい?」彼の言葉に真実の心臓は再び大きく跳ねた。「え、ええ、もちろん!」そう答えると、照れくさい笑いがこぼれる。
ランチを食べながら、みんなで話していると、亮介がふと真実を見て話しかけてきた。「真実って、何が好きなの?趣味とか。」その問いかけに、彼女は少し驚いた。普通は学校の友人同士で交わすようなフランクな会話の中で、自分に向けられたど真ん中の質問だったからだ。
「私は…本を読むのが好きです。」そう答えると、亮介は興味深そうに目を輝かせた。「どんな本?」その後、二人の会話はどんどん盛り上がり、他の仲間たちも巻き込んで、楽しい時間を過ごした。日が沈みかける頃、亮介が「また一緒に読書の話したいな」と言ってくれた瞬間、真実の心は弾けんばかりだった。
ピクニックが終わり、帰る道すがら、真実は一つの約束を心の中で決めた。「次の文化祭の日、彼に手作りの本を渡そう。」その思いが、青春の甘酸っぱさを増していった。
しかし、時は過ぎ、文化祭の日が近づくにつれて、真実の心の中は不安でいっぱいになった。周りにいる友人たちの中には、亮介に好意を寄せている女の子も多く、彼女の思いが実るかどうか未知数だった。
文化祭の当日、教室は装飾で華やかになり、笑い声や楽しそうな音が響き渡る。真実は早朝から準備に奔走し、やっとの思いで亮介のために手作りの本を用意した。張り切って作ったそれは、真実の想いやお気に入りの物語で埋め尽くされていた。
午後、賑わいの中で亮介を見つけると、真実は一瞬ためらったが、勇気を振り絞って彼のところに歩み寄った。「亮介…これ、君に渡したくて。」
亮介は本を受け取り、驚いたような顔をした。「本当に?ありがとう、すごく嬉しいよ!」彼の笑顔は真実の心を暖かく包み、ますます自信を与えてくれた。
しばらくして文化祭が終わりに近づくと、真実は一つの勇気を振り絞った。「あの…亮介、私、君が好きなんだ。」その言葉は静寂を破る大きな声となり、自分でも驚くほどだった。
亮介は少し驚いた顔をした後、優しく微笑んで答えた。「俺も、鈴木さんのことが好きだよ。でも、もっと色んな友達と一緒に話したいから、少しだけ待っていてもいい?」その言葉は真実の胸を打ち、心の中が温かくなった。
その日以来、真実は亮介に少しずつ近づいていった。男子とも女子とも友情を深めながら、亮介との距離も少しずつ縮まっていく。やがて二人は、初恋の未練を持ちながらも、共に青春の素晴らしさを体感することになった。
時が経ち、振り返れば薄れていく思い出もある。でも、彼女はあの日の約束を胸に、新しい未来を迎える準備を整えていた。真実の青春は、彼との出会いによってより鮮やかに色づいていったのだ。