暗号の謎解き

静まり返った夜の闇を切り裂くように、鋭い叫び声が旧校舎にこだました。張り詰めた空気が一瞬にして震え、恐怖の波がそこにいた全員の心を貫く。数瞬間の間、誰も動けずただ沈黙が支配する。


その叫び声を発したのは、霧原梓だった。彼女は友人たちとともに、旧校舎の怪談話を確かめに来たのだ。古びた廊下に佇む彼女の目は、何か恐ろしいものを見たかのように見開かれている。梓の視線の先にあったのは、一片の紙切れだった。


「これ、何?」と彼女は震える声で言った。


その音に反応して、友人たちが駆け寄る。染村涼太が紙切れを手に取ると、そこには一連の暗号と思われる符号が不気味に並んでいた。紙の反対側には、血のような赤いインクで「死の宣告」という言葉が記されていた。


「なんだこれ、誰かの悪戯か?」涼太は半信半疑で声を上げたが、その場の空気は明らかに変わった。


「もしかして、この紙のせいで誰かが……?」鈴木菜月が声を潜めて言った。その目は不安と恐怖に揺れている。


その時、不意に電灯がフリッと消え、旧校舎は完全な闇に閉ざされた。心臓の音が耳元で鳴り響く中、隣のクラスメートの呼吸音までもが聞こえる気がする。


「もうだめ、ここを出よう」と和田拓也が声を震わせながら言った。


皆は一斉に出口の方向に向かって足早に歩き始めたが、どこかで聞いた噂が頭をよぎる。この旧校舎には「絶対に入ってはいけない部屋」が存在すると。それは、かつて教師が謎の失踪を遂げた部屋だと伝えられていた。


ドアに手をかけたその瞬間、足元から冷たい手が伸びてきた。悲鳴を上げ、後ろを振り返ると、そこには透明でおぼろげなものが姿を現す。まるで亡霊のような姿にだれもが息を飲んだ。


冷や汗が顔を伝う中、その亡霊の口がわずかに動き、ぼそりとした声が聞こえた。「ここからは誰も逃れられない……」


血の気が引いた顔のまま、誰もが無意識のうちに一歩後退した。ただ一人、梓だけはその場に立ちすくんでいた。まるで脚が石になってしまったかのように。


涼太が梓の手を掴んで引っ張ろうとしたが、彼女はその場を動かなかった。「梓、早く来るんだ、ここにいたら危ない!」


だが、その時不意に梓の目が輝きを取り戻し、こう言い放った。「私は、この紙を解決するまでここを出ない。」


その言葉に驚きつつも、涼太と他の友人たちは一瞬戸惑った。その瞬間を利用するように梓は廊下の奥へと走り出した。涼太たちは彼女を追うが、その影はすでに闇に溶け込んでいた。


敷地内に点在する古びた部屋が、彼らを囚えようとするように立ちはだかる。旧校舎の奥深くへと進むたび、空間が歪み、現実感が薄れていく。その中で、梓の足音だけが遠くに響きわたる。


行き着いた一室、その扉を開けると、古びた机の上に一本のロウソクが不気味に灯っていた。その光の中に浮かび上がる紙と同じ符号。部屋の片隅には、まるで何かを書き続けたかのような人物の鉛筆。


「この部屋こそが、失踪した教師が最後にいた場所……?」涼太が息を飲んでつぶやく。


だが、その瞬間に気づいた。梓が立っているその周囲に、また別の符号が床に刻まれている。それは以前に見つけた紙切れの符号に完全に一致していた。


「つまり、この符号は何かのパターン……?」


その思考をよそに、梓が震える手で教師の書き残したと思われるメモを拾い上げる。そのメモには、恐るべき真実が記されていた。「我が魂は此処に縛られし、永遠に解脱すること叶わぬ。」


「これが、真実なの……?」


梓の声に涼太たちも恐怖に凍りついた。心の底から湧き上がる絶望が、その場の空気を塗り替える。しかし、その時、涼太が思いついた。


「この符号は、彼を解放する方法のヒントかもしれない!早く解読しなきゃ、そうでなければ俺たちもここから出られない!」


必死に頭を働かせ、符号の意味を解読し始める。時間が経つ中、ロウソクの火が徐々に細くなっていく。緊張と焦燥が入り混じる中、やがて一つの符号が解読された。


「『解放の言葉』……これか!」涼太がそれを口にすると、亡霊の姿が徐々に淡くなり、そして完全に消え去った。


四人は解放された安堵感に包まれ、旧校舎を後にした。だが心の中には、恐怖の余韻が依然として残っていた。彼らは決して忘れないだろう。この夜の恐怖を。