月夜の呪縛
夜が深まるにつれて、田舎の村は静まり返っていった。人々は家の中に閉じこもり、聞こえるのは風の音だけだった。この村にはある伝説があった。百年前、この地で行われた祭りの夜、突然村人が失踪し、その後二度と戻ってこなかったという。しかし、失踪事件の真相は誰も知らない。村の外に出る者はいなかった。
物語の主人公である美香は、若い頃からこの村に住んでいた。彼女はこの村の伝説に興味を持っており、失踪した村人たちの真相を解き明かすことを決意していた。美香は、村の古びた図書館を訪れ、古い記録を探し始める。すると、祭りの記録の中に、奇妙な言葉を見つけた。「月夜の下で、祭りが始まる。」
気になった美香は、その言葉をもとに、村の古い祭りの準備が進められていることを知る。祭り当日、彼女は一人で参加することに決めた。この祭りは、村の人々の心に秘められた不安を解消するために行われるものらしかったが、美香は何か得体の知れないものを感じていた。しかし、その直感に反して、彼女は祭りの盛り上がりを楽しんだ。
祭りが始まると、村の広場は賑わいを見せていた。人々は上機嫌で踊り、歌い、飲み食いしていた。しかし、美香は目の前にある異様な光景に気づく。場面ごとに、同じ顔をした人々が笑っている。その顔は、まるで一つの人格を持つかのように一致していた。彼女は次第に不安を抱くようになった。
祭りの最中、美香はふと目を離した隙に、知らない場所に迷い込んでしまった。そこは、村の外れ、古い家々が廃墟と化し、草に覆われた道だった。彼女は不安に駆られながらも進んでいくと、突然、目の前に一人の老人が現れた。彼は、村の伝説を知る者として、彼女に警告をしてきた。
「祭りは、選ばれた者を生け贄にするために行われる。今年の祭りでは、君がその役目を果たすことになる」と、老人は言った。美香は驚愕し、逃げ出そうとしたが、老人は続けた。「よく考えなさい。君は選ばれた理由があるのだ。何もかも、すでに決まっているのかもしれない。」
美香は恐れる気持ちを抑え、祭りの広場に戻ろうと急いだ。しかし、道が次々と変わり、迷子になった彼女は一向に元の場所に戻れなかった。あたりは次第に薄暗くなり、彼女の心は焦燥感に満ちていた。
そのとき、彼女は祭りの音楽がかすかに聞こえてくるのに気づく。急いで音の方へ駆け出すと、彼女は再び広場の中央に立つことができた。しかし、そこには先ほどの賑わいはなく、彼女に向かって村人たちがじっとこちらを見つめていた。
群衆の中心には、祭りの中心とされる大きな木がそびえ立っていた。木の下には、血に染まった白い布が敷かれており、その上に何かが置かれていた。それは、失踪した村人たちの顔を模した人形だった。その顔は、彼女がさっき見た村人と同じ顔だった。
恐怖に駆られ、美香は叫びながら後退った。その瞬間、周囲の村人たちが彼女を取り囲み、彼女の逃げ道をふさいだ。「君は祭りの一部だ。この村には、君のような人間が必要なのだ」と、村人たちが一斉に声を上げる。
美香はその言葉の意味を理解した。彼女はこれまで、村の伝説に興味を持つあまり、彼らの中に潜む恐ろしい真実に気づかなかったのだ。村は、失踪した村人たちの記憶を生かすために新たな生け贄を求め続けていた。彼女はまさに、その“生け贄”となる運命にあった。
逃げることはできない。彼女の心に浮かぶのは、あの日の古い記録。「月夜の下で、祭りが始まる。」その言葉が、今や彼女の運命を決定づける言葉として響き渡る。
美香は自らの運命を受け入れざるを得なかった。その瞬間、村人たちの暗い笑顔が一斉に彼女を包み込み、彼女の人生は村の伝説の一部となった。彼女の失踪もまた、次の祭りへと続く伏線となるのだった。