霊のアルバム
ある静かな村に、日々の生活とは裏腹に、村の外れには一つの古びた家があった。長い間人が住んでいないその家は、村人たちの噂の的となっていた。「あの家には死者の霊が住んでいる」という言い伝えが広がり、誰も近寄ろうとはしなかった。しかし、好奇心旺盛な若者の中に、特にその噂を信じるものがおらず、逆に夜中にその家へと忍び込むことを決心した者がいた。
田村はその若者だった。彼は村に住む23歳の平凡な男で、常に新しい刺激を求めていた。ある晩、彼は自転車を走らせてその家に向かい、手がかりを求めて庭の雑草をかき分けながら家の中に潜入する。扉は錆びついており、力を入れるとギシギシと音を立てて開いた。
中に入ると、埃だらけで薄暗い室内が広がっていた。ちらりと見える家具は、長い年月にわたって放置されたことが明白だった。その時、田村はかすかな声を耳にした。それは誰かのすすり泣く声のようだった。心臓が高鳴り、田村は声のする方へと進んでいく。
声の正体は、古びた鏡の前に立つ一人の女性だった。彼女は白いドレスをまとい、太陽の光がかすかに差し込む窓の近くで、ただ立ち尽くしていた。その姿はまるで夢の中のようで、田村は一瞬にして心を奪われた。彼女の顔には悲しみが漂い、その美しさはどこか切なさを帯びていた。
「あなたは誰?」田村は思わず声をかける。その女性は振り返り、彼と目が合った瞬間、恐怖心が彼を襲った。彼女の目は無気力で、まるで生きているようには見えなかった。
「私はここにいるの、でももう戻ることはできない」と彼女は寂しげに言った。その言葉の意味を理解できぬまま、田村はどうにか冷静さを保とうとした。
「どうしてここにいるの?何があったの?」田村は尋ねた。
女性は静かに目を閉じ、思い出を語り始めた。「私はかつてこの村に住んでいた。幸せな日々を送っていたが、ある日、事故に遭って…それから、私はこの家に残されたの」と彼女は言った。言葉の端々には消えた者の無念が含まれていた。
田村は少しずつ理解し始めた。彼女は生きている者とは違い、もうこの世に存在していないのだ。しかし、その思念がこの家に留まり続けていた。
「あなたはまだやり残したことがあるの?」田村は恐る恐る尋ねた。
女性は頷き、涙を流した。「私の残したもの…それを見つけることができなければ、私はこの場から去れないの」と。
彼女が何を残したのか、その手がかりがどこにあるのか、田村には分からなかった。しかし、生死の狭間にいる彼女の苦しみを目の当たりにし、手を差し伸べずにはいられなかった。
「手伝います。何を探せばいい?」田村は決意をもって言った。
女性は感謝のまなざしを向け、「私の思い出が詰まったアルバムがこの家のどこかに…それを見つけて欲しい」と告げた。彼女の言葉を受け、田村は早速家の中を探索し始める。
古い家具の下や、壁の隙間を探し回る中、彼は少女の笑顔の写真や、家族と過ごした幸せな瞬間が詰まったアルバムをとうとう見つけた。彼はそれを女性に手渡し、彼女の目に光が宿るのを見た。
「これが私の過去…私の生きた証」女性はアルバムを抱きしめ、感情を露わにした。その瞬間、彼女の周りの空気が変わり、光が彼女を包み込む。田村は驚きながらも、その美しい光景を見つめた。
「ありがとう、助けてくれて…私はやっと解放されることができる」と女性は微笑み、そのまま姿を消した。家に残されたのはその温もりだけだった。
田村は驚きと安堵を感じながら、村へと戻ることにした。彼は生と死の境界に立ち、不思議な体験をしたことで、これまでの自分の価値観が揺らいでいることを実感した。死者の思い出が不完全である限り、その者は解放されない。彼はその事実を胸に刻み、次に何を大切にするべきかを考え始めた。生きている限り、彼にはできることがまだたくさんあるのだと。