呪われた村の影
薄暗い森林の奥深く、昔から「呪われた村」と呼ばれる場所が存在した。その村は数世代にわたり人々が失踪し、誰も戻ってこなかった。その噂を聞きつけた記者の田中は、恐怖心よりも好奇心を優先し、村を訪れることに決めた。
田中は友人の佐藤と共に、村に向かうことにした。道に迷うことも恐れず、二人は森林の中へと足を踏み入れた。「大丈夫だよ、何も怖がることはない」と田中は自分を鼓舞しつつ、道を進んだ。時折、風の音や枝が擦れる音が耳に入るが、彼らはその恐怖を和らげるために冗談を言い合った。
数時間後、ようやく村にたどり着いた。村は荒れ果てた状態で、崩れかけた家々が並んでいた。田中はカメラを構え、周囲を撮影し始めた。「不気味だけど、なんか興味深いね」と彼は笑った。佐藤も同感だったが、どこか不安を抱えていた。
村の中央には、古びた神社があった。二人はその神社に近づき、周囲を探ることにした。その瞬間、田中は感じた。何かが彼らを見ている…背筋が寒くなる感覚だった。彼は無理にその感覚を振り払おうとしたが、すぐに周りの静けさに気づいた。動物の声さえも聞こえなくなっていた。
「ここ、なんか変だね」と佐藤は言った。田中は頷き、神社の中に入ることにした。神社は薄暗く、奥には祭壇があった。その祭壇には、古い人形と不気味な文字が刻まれた板が置かれていた。「これは一体…」田中は人形に手を伸ばした瞬間、冷たい風が吹き抜けた。
二人は驚いて振り向いた。外に何か黒い影が見えた。それは人の形をしていたが、明らかに人間ではない。不気味な目が真っ黒に潤んでおり、その目が田中を見つめていた。田中は恐怖にとらわれ、「逃げよう!」と叫び、二人は神社を飛び出した。
しかし、村は完全に変わっていた。さっきまでいた道は跡形もなく消えており、全てが黒い霧に包まれていた。「どうしよう、道が分からない!」佐藤はパニックになり、周囲を見回した。田中も焦った。声が聞こえない、まるでこの村自体が彼らを捉えようとしているような感覚だった。
「ここから出よう、早く!」二人は手に手を取って走り出した。しかし、霧は二人の進む方向を阻んでいた。どこに行っても同じ風景しかない。結局、彼らは神社の前に戻ってしまった。その時、田中は気づいた。神社の周りには、全ての家の扉が開け放たれていた。そして、まるで無数の目が彼らを見つめているかのようだった。
「助けて…」とつぶやく声が聞こえた。ただの風の音かと思ったが、その声は確かに近くから聞こえてきた。田中と佐藤は振り向くと、木々の間から一人の少女が現れた。彼女は薄汚れた衣服を着ており、目はどんよりとした笑顔を浮かべていた。
「ここは安全よ、こっちに来て」と彼女は微笑んで呼びかけた。田中は踏み込む勇気が出ず、ただ立ち尽くしていた。佐藤が一歩踏み出した瞬間、少女の笑顔は変わり、恐ろしい表情に切り替わった。彼女の口からは血の滴る声が漏れ、「彼らは逃げられないわ」と笑った。
田中は混乱し、動けなくなった。彼は佐藤の方を見たが、彼の姿はもうなかった。周囲の霧が彼を包み込み、意識が混濁していく。恐怖のあまり彼は目を閉じた。
目が覚めたとき、田中は村にいた。全てが元通りに戻っているが、彼の心は冷たい恐怖に支配されていた。彼は一人だけ、ここで取り残されてしまったのだ。あの少女の笑顔が常に頭の中を巡り、彼は絶望した。彼の心の中には「ここから出られない」という言葉がこだました。
それから数年後、田中の失踪は新聞に載った。しかし、彼は村で永遠にさまよい続けることになる。周囲には、彼の声と共に何か不気味な笑い声がいつまでも響いていた。森は再び静寂に包まれ、呪われた村の伝説は永遠に続く…