月明かりの影

月明かりが差し込む古びた別荘に、佐藤は一人で滞在していた。この別荘は彼の祖父が遺したもので、普段は誰も訪れない静かな場所だった。家族の思い出に浸るつもりだったが、どこか不気味な静けさが彼を不安にさせた。何も起こらないはずだと思い込むように、彼は自分を励ました。


初日の夜、薄暗いオーディオから流れるラジオ番組の声が、外の静けさをかき消していた。だが、その途中でラジオが突然途切れ、静寂が戻ってきた。少し身震いしながら、佐藤は治まらない心臓の鼓動に耳を澄ませた。その瞬間、どこからともなく微かな足音が聞こえた。彼は思わず振り返るが、何も見えなかった。やはり気のせいだと考え直し、再びリラックスを試みた。


翌朝、彼は別荘の周囲を散歩することにした。そこには年齢を感じさせる木々が生い茂り、妙な圧迫感があった。やがて、彼は一軒の小さな小屋を見つけた。誰かが住んでいる様子はなく、ドアは閉まっていた。好奇心に駆られ、彼はドアを軽く叩いてみた。「中にいるのか?」と叫んでも、返事はなかった。あきらめて引き返そうとした瞬間、彼の目の前に一枚の古びた新聞が目に入った。


その新聞には、十年前にこの別荘で起きた一家失踪事件の記事が掲載されていた。記事には、夜中に何者かが家に侵入し、全員が姿を消したと書かれていた。家族はその後も見つからず、結局事件は迷宮入りとなったという。彼は寒気を覚え、思わずその場を離れた。


日が暮れ、再び別荘に戻った佐藤は、先ほどの新聞記事のことが頭から離れなかった。嫌な予感が胸を締め付ける。彼は再びラジオをつけたが、今度は放送が不安定で、雑音が混じっていた。そのとき、ふと窓の外を見た。そこに一瞬、誰かの影が見えた気がして息を呑む。確認しようと外に出たが、誰もいなかった。これ以上の不安は耐えられないと感じ、彼は部屋の灯を全て消した。


だが、夜が深まるにつれ、足音が再び聞こえ始める。今度は明らかに家の中で何かが動いている音だった。心臓が高鳴り、彼は震える手で懐中電灯を取り出す。じっと見つめる中、彼は足音の主を探すべく家の中を巡った。廊下の先、キッチンの方から微かな物音がした。


息を潜め、音のする方に向かう。そこには、誰かが立っていた。薄暗い中に浮かび上がるその影には、長い髪がかかり、顔はわからなかった。佐藤は恐怖で身動きが取れず、ただその場に立ち尽くした。すると、影は振り返り、その目が彼の目を捉えた。じっと見つめ合う。しかし、その目は生気を失っていた。


「助けて…」か細い声が漏れた。思わず逃げ出そうとしたその瞬間、彼女の身体が揺らぎ、そのまま姿を消した。驚愕に包まれた佐藤は、ドアに飛びついて逃げ出そうとした。しかし、どこに行けばよいのか、もう分からなかった。


外に出ると、月明かりの下に同じように不安そうな顔をした見知らぬ人々の姿があった。彼らの目にも驚愕が光り、言葉もなくただ見つめ合う。突如として、彼はそれらの人々の中に、失踪したはずの家族がいることに気づいた。それらは十年前のあの家族だったのだ。彼は夢中で逃げようとしたが、周囲は煙に包まれ、何も見えなくなっていった。


目が覚めると、佐藤はベッドの上で寝ていた。まるで夢の中にいるかのような感覚が抜けきれなかったが、窓の外からは朝の光が差し込んでいた。起き上がり、安堵したその瞬間、耳にしたのは再びラジオの音だった。


「現在、この別荘で失踪事件が続出しているというニュースが…」という声が流れ、彼の背筋に冷たいものが走った。 квартира, 惨劇」は終わっていなかった。