消えた道の恐怖

ある静かな村には、不思議な伝説があった。その村の外れにある森には、時折「消えた道」と呼ばれる謎の道が現れるという。村人たちはそれを恐れ、決して近づくことはなかった。しかし、好奇心旺盛な若者、健太はこの話に興味を抱き、ある夜、仲間とともにその道を探すことにした。


彼らは月明かりに照らされた森へと足を踏み入れた。木々の影が揺れ、暗闇がぎゅっと心を締め付ける。しばらく進むと、彼らは突然、森の深いところに白い光を見つけた。それはまるで道のように見え、彼らを呼ぶように輝いていた。この道を進むことが、伝説の真相を解明する近道だと思った健太は、友人たちを促して道に足を踏み入れた。


進むほどに、不思議な光景が広がっていた。道の両側には、かつての村人たちの姿が浮かび上がっていた。彼らは笑顔で手を振りかけてくれたが、彼らの目は空虚で、どこか冷たい光を帯びていた。健太は不安を覚えたが、仲間たちは「これは幻だ」と笑い飛ばした。


道が続くにつれて、周囲の空気はどんどんひんやりとしていった。そして、光が強まるにつれ、村人たちの声がはっきりと聞こえるようになった。「戻っておいで、ここは安全だ」と、彼らは繰り返した。健太は胸がざわつき、心の奥底で何かが引っかかっているような感覚を覚えた。


しかし、友人たちは好奇心に駆られ、さらに進むことを選んだ。道が続くごとに、健太の疑念がますます高まる。彼は、「もう戻ろう」と提案したが、仲間たちは彼を無視して進んでいく。


さらに進むと、道は細くなり、次第に霧が立ち込めてきた。視界が悪化し、道の行く先が見えなくなる。心の中に不安が広がり、健太はついに決意した。「友達を守るために、私は戻る!」と叫んで、後ろを振り返った瞬間、道が急に消えた。


彼の周りは深い霧に包まれ、これまでの道は完全に見えなくなってしまった。彼は自分の呼吸音が異常なほど大きく感じ、恐怖に慄いた。急に、周囲から聞こえてくる声が変わり始めた。「去らないで、私たちと一緒に…」その声は暗闇の中から徐々に大きくなり、まるで彼を引きずり込もうとしているかのようだった。


健太は全力で森を駆け出した。しかし、どれだけ走っても、道は見つからない。足元が滑り、彼は転んでしまった。周囲の霧が彼を包み込み、目の前に見えたものは、かつての友人たちだった。彼らは無表情で立ち尽くしていて、まるで別人のように見えた。


「あなたは私たちの仲間だ」と彼らは口をそろえた。その瞬間、健太は恐怖に駆られた。自分がこの道の一部になってしまうという予感がした。彼は必死に逃げ出そうとしたが、彼らの手が彼の腕を掴んだ。冷たい手が彼を締め付け、力が抜けていく。


「もう戻れないのよ。ここは永遠の場所だから」と彼らは囁いた。健太はその言葉の意味を理解しかけたが、同時に心の奥底で恐怖と絶望が広がり、意識が薄れていった。やがて視界が真っ暗になり、彼は森の中に消えた。


数日後、村人たちは健太たちを探しに出かけた。しかし、道は見当たらなかった。彼らが発見したのは、ただ静まり返った森と、薄キズのように残った「消えた道」の足跡だけだった。


その後、この村には不思議な話が語り継がれた。消えた道は再び現れるかもしれない。そして、好奇心が強すぎる者は、決して村に戻らないという警告が残された。村人たちは森に近づくことをやめ、永久に消えた道の存在は、恐れと共に語り継がれることとなった。