エンリケの真実

木々が密集した古びた森の奥深く、ひと際大きな枝の折れた木が立っていた。その木のそばには小さな村があったが、村人たちはその木を恐れ、近づくことを避けていた。言い伝えによれば、その木の下にはかつて村人の一人が埋められているという。彼の名はエンリケ。村の人々はエンリケが不幸な生涯を送り、死後も憎しみを抱いていると信じていた。


ある晩、若いカトリーナが村の人々の話を耳にした。彼女は好奇心が強く、恐れを克服するためにその木を見に行くことに決めた。月明かりの下、カトリーナは慎重に森の中を進んでいった。風が木々を揺らし、彼女の心臓は高鳴った。まるで誰かに見つめられているかのような不安感が心を締め付けた。


木の前に立つと、彼女はその大きさに圧倒された。周囲は静まり返り、ただ彼女の呼吸音だけが響いていた。その時、不意に木の根元からひんやりとした空気が吹き上がり、カトリーナは身震いした。気を逸らすために、彼女は木の周りを回り始めた。すると、地面に何かが埋まっているのを見つけた。


それは古ぼけた木箱だった。興奮したカトリーナは、箱を掘り出してみることに決めた。周囲を警戒しながら手を使って掘り進め、ついに箱を取り出した。錆びた金具で閉じられたその箱は、開けるのに少し力が必要だった。カトリーナは一息つき、心の中の緊張を和らげるために念じた。「大丈夫、ただの古い箱だ」と。


蓋を開けると、中にはエンリケの古い日記が入っていた。ページは黄ばんでおり、文字はかすれていたが、彼女は必死に読み始めた。エンリケは、村人たちとの不仲や彼の無実を訴える内容を書き記していた。彼の言葉は、何かに取り憑かれたかのように、焦点を失った目で書かれているように感じられた。怒りと悲しみが混ざり合い、彼の心の葛藤がひしひしと伝わってくる。


カトリーナは日記を読み進めるうちに、次第に不安を覚え始めた。彼女の周りの空気が重く感じられ、何かが彼女の背後に忍び寄ってくるような気配がした。振り返ると、何もいなかったが、心の奥に不安の影が迫っていた。


彼女は日記を持って森を離れることにした。帰路につく途中、月が雲に隠れ、周囲は一層暗くなった。それでも日記が彼女の手の中にあったため、少し安心した。しかし、背後からかすかな声が聞こえ始めた。カトリーナは立ち止まり、耳を澄ます。「エンリケ…」と、誰かが囁いている。


彼女は逃げるように歩き始めたが、足がもつれる。振り返ると、今度は確かに誰かの姿が見えた。薄暗い中で、愁いを帯びた表情の男が立っている。カトリーナは息を呑んだ。それは間違いなくエンリケだった。彼は口を開き、「私を忘れないでほしい」と言った。


彼女は恐れに駆られ、その場から逃げ去った。しかし背後からはエンリケの声がしつこく追いかけてくる。「逃げないで…私の真実を…」


カトリーナは村に戻り、日記を読み返すことにした。彼女はエンリケの話を村人たちに伝えようと心に決めた。彼女の発見を知る者たちは怒りや恐れに駆られた。しかしカトリーナは、日記の内容が本当であると信じていた。


数日後、村の広場で集会が開かれ、彼女はエンリケの真実を話し始めた。しかし、村人たちは彼女の話を信じようとせず、恐れが彼らを支配した。すると、再びエンリケの声が村に響き渡った。「わたしを解放して…真実を知って…」


その夜、再びエンリケの姿が現れ、村人たちに迫った。彼は鮮明な姿で、彼に対する疑念を一つ一つ払拭していった。だが村人たちの恐怖心は強く、エンリケに対して矢のように攻撃を始めた。カトリーナは必死に彼を庇った。


混乱の中、エンリケの姿が徐々に薄れていく。彼は絶望に満ちた目を見せながら、カトリーナに最後の言葉を残した。「私を忘れないで…私の名前を、真実を…伝えて…」


朝が来ると、村は静まり返った。カトリーナはエンリケの日記を持って立ち尽くし、彼の言葉を守ることを心に誓った。村人たちの恐れは変わらなかったが、彼女だけがその真実を心に留め続けることにした。そして、彼女の口からその名が語られなければならないことを理解した。エンリケは、彼女の中に永遠に生き続けるのだった。