願いの冷蔵庫
郊外の小さな町に、かつて「願いをかなえる冷蔵庫」と呼ばれる不思議な冷蔵庫があった。その冷蔵庫は、町の外れにある古びた家の地下室にひっそりと置かれていた。噂によれば、誰かが冷蔵庫に食べ物を入れて扉を閉じると、その食べ物が誰かの願いをかなえてくれるというのだ。もちろん、願いには代償が伴うことが多く、町の人々はその話に恐れをなしていたが、同時に興味をそそられてもいた。
ある夏の日、若い女性、名は遥は、友人からその噂を聞いた。彼女は幼いころから冒険心旺盛で、新しいものや不思議なことに惹かれる性格だった。魅惑的な話を聞いた彼女は、何か特別な体験を求め、その冷蔵庫を探しに行く決意を固めた。次の休みの日、彼女は古い家の場所を聞きつけ、昼間の明るい時間に一人で向かった。
家は風化が進んでおり、窓ガラスは割れ、ドアは隙間から風が入り込むほどだった。彼女は恐る恐る裏口から中に入り、暗い廊下を進んだ。地下室の扉は重く、古びた金具に錆が付いている。心臓が高鳴り、手が震えたが、彼女は意を決してその扉を開けた。
地下室はひんやりとした空気に包まれており、冷蔵庫は隅に寄りかかるように存在していた。青白い光を放ち、まるで生きているかのように感じた。その冷蔵庫は古びてはいたが、何か異様な存在感を持っていた。
遥は興奮しつつ冷蔵庫の前に立った。「何か願い事を考えなきゃ」と彼女は思い、目を閉じた。強く願った。「私はもっと友達が欲しい。」と。彼女はその願いを冷蔵庫に届けるため、冷蔵庫のドアを開けると、空の棚に自分が持ってきたお菓子を入れ、再びドアを閉めた。
その瞬間、静寂を破るような仕掛け音が響き、一瞬、彼女の心臓が止まるかと思った。冷蔵庫が振動し、ドアの向こうからかすかな声が聞こえた。ただの風の音だと思ったが、何かが彼女の耳元で囁いているように感じた。
「お前の願いをかなえてやる。」その声は低く、しかし不気味に響いた。彼女は恐れを感じつつも、期待に胸を膨らませた。日が経つにつれ、彼女は様々な人と出会うようになった。初めは新しい友達ができることに喜びを感じていたが、次第にその人たちがどこかおかしいことに気づくようになった。
彼女の周りの友達は、どこか無表情で、感情を感じないような目をしていた。そして話す内容もどこか冷淡だった。「ああ、またお前か」とか、「どうでもいいよ」といった言葉が飛び交う。彼女は、彼女の願いが一体何をもたらしたのか、少し恐怖を覚えるようになった。
友人たちと過ごす時間が鬱陶しくなるにつれて、彼女は冷蔵庫を再び訪れる決意をした。どうにかしてこの状況を解決したい。彼女は冷蔵庫の前に立ち、改めて願い事を考えた。「頼むから、普通の友達が欲しい!」と強く願った。
冷蔵庫のドアを開け、お菓子を入れた。その瞬間再び声が聞こえた。「お前の願いをかなえてやる。」が、それは初めとはまるで異なる声。今度は耳がキンキンするほどの激しい鋭い声で、冷蔵庫が激しく揺れだした。彼女は恐怖に包まれ、急いでその場を離れようとした。
しかし、冷蔵庫の扉が再び開き、黒い霧のようなものが流れ出てきた。その霧は彼女の身体を包み込み、彼女を強く引き寄せた。「お前の願いは、もうお前の物だ」と冷酷に囁く声が響いた。
彼女は混乱し、目の前の景色が変わり始めた。一瞬で、彼女は黒い霧に呑み込まれ、別の世界に引き込まれた。その場所は、まるで夢か悪夢かの境界のようで、彼女は何も思い出せなかった。恐れの中、彼女は自分の望んだ友人たちが、もはや人間ではないことを理解するのに時間はかからなかった。
冷蔵庫の噂は、町の人々の間で静かに語り継がれていく。誰もがその場所を近寄らないようにし、あの不思議な冷蔵庫の存在を忘れ去っていった。遥の姿はどこにも見当たらなくなり、冷蔵庫の扉は静かに閉じられ、再び夢の中へと隠れていった。時が経つにつれて、ただの都市伝説となり、忘れられる運命を待っていた。