光の影

村の外れにある古びた屋敷は、長い間人々に避けられていた。その屋敷には、かつてそこに住んでいた一家が抱えていた不思議な伝説があった。それは、夜の帳が降りると、屋敷の窓辺に奇妙な光が現れるというものだった。その光は一瞬の後に消え、人々はそれを「光の精霊」と名付けた。


村の子供たちは、好奇心から屋敷の周りで遊ぶことを好んでいたが、大人たちは決して近付こうとはしなかった。そんなある日、村に新しい家族が引っ越してきた。彼らは都会から来た姉弟の二人、アキラとミカだった。好奇心旺盛なアキラは、友達が話す屋敷のことに興味を持ち、ミカを連れて欲望のままに屋敷を訪れることを決めた。


夕方、兄妹は懐中電灯を手に持ち、薄暗い森を抜けて屋敷に向かった。屋敷の前にたどり着くと、外観は崩れかけ、もはや生きた人の住処とは思えなかった。しかし、そこに潜む不思議さがアキラの心を惹きつけた。


中に入ると、屋敷の内部は古い家具やほこりで覆われたものの、異様な静けさが広がっていた。アキラは「何も怖くない」と言いながら、家の内部を探索し始めた。一方のミカは、不安を感じていた。彼女は一緒にいられることが安心だったが、屋敷の eerie な雰囲気が彼女を苛立たせた。


「おい、見て!」アキラが叫び、二階へと駆け上がる。ミカはしぶしぶ彼を追った。二階の端にある小さな窓から、夕日が差し込み、光の帯を作っていた。しかし、ふとその光の中に何かが映った。ミカは目を細め、そこに立つぼんやりとした影を見た。


「アキラ、見て!」ミカが指を指した。


しかし、アキラはその影を見ていないようだった。彼は笑い、「ただの影だよ、ミカ」と言った。しかし、ミカの目にはその影が人間の形をしているように見え、握りしめた懐中電灯が震えた。


「行こう、帰ろうよ」とミカが言ったが、アキラはそのまま進もうとする。影はだんだん近づいてくるように見え、彼の心に恐怖が広がっていった。彼は心の奥底で何かを感じ始めた。この場所には、ただの物語や噂だけではない何かが潜んでいると。


その瞬間、屋敷の外から風が吹き、窓が大きな音を立てて閉まり、それと同時に二階の廊下で鈴の音が響いた。それは美しくも、不気味な音だった。アキラの心臓は高鳴った。「これ、何?」


「私たち、帰ろう!」ミカが半泣きで叫ぶ。


しかし、アキラは後すがり、影を見るのをやめようとしなかった。その影は、彼らの目の前で生きたかのように動き始めた。そして、急にアキラの名前を呼ぶ声がした。「アキラ……」


その声は甘く、まるで誰かが彼に親しく語りかけているかのようだった。しかし、ミカは声の持ち主を見ていないことで、不安が募る。彼はその声を振り払おうとしたが、心は服従していく。


気がつくと、アキラは影の元へと歩いていた。彼の後ろでミカが叫ぶ。影の中に吸い込まれるように、アキラはその存在に魅了され、みるみるうちに姿が曖昧になっていく。声はますます大きくなり、アキラの中に何かを植え付けていくようだった。


「アキラ、やめて!」最後の叫び声を残して、ミカは階段を駆け下り、外へと飛び出した。外の風は冷たく、彼女の心臓は破裂しそうだった。振り返ることもせず、全速力で村へと逃げた。


村についたとき、彼女は息を切らし、家族や誰かに助けを求めた。大人たちは不安そうに彼女を見つめたが、誰も屋敷へ行こうとはしなかった。ミカはただ、兄が戻ってくることを願うしかなかった。


夜が明け、村人たちが屋敷に行ったところ、屋敷はいつもと同じに見えた。アキラの痕跡はどこにもなかった。屋敷は何かを隠しているかのように静かだった。そして、村ではその出来事が噂になり、やがて忘れ去られることとなった。


しかし、ミカの心の奥には、アキラを呼ぶ声がずっと響いていた。彼はまだその影の中で、何かを見つけているのだろうか。それとも、もう絶対に戻れない世界に迷い込んでしまったのか。彼女にはわからない。ただ、不気味な光が再び夜空に現れるその時、彼女の心は揺れ動くのだった。