澪の深淵

彼女の名は澪(みお)。いつも静かで、周囲に溶け込むような存在だった。しかし、澪の心の奥底には、誰にも知られてはいけない秘密があった。彼女は、感情を持たないサイコパスだった。


澪は、普通の女子大生として生活をしていた。友人たちとカフェで過ごし、授業を受けて、バイトをしながら、少しずつ社会に馴染んでいるように見えた。しかし、彼女の心には、他人の感情を理解することができない孤独が広がっていた。人々の喜びや悲しみは、まるで映画のように彼女の目の前で展開するが、澪にはそれを感じることができなかった。


ある日、澪はバイト先の居酒屋で、常連客の男性、佐藤(さとう)と出会った。彼は他の客と比べて明るく、いつも冗談を飛ばして周囲を楽しませる男だった。澪は彼の仕草や言動を観察し、彼の周りにいる人々が楽しそうに笑っている様子から、何かを学ぼうとしていた。そして、彼女の心の中に、ある恐ろしい衝動が芽生え始めた。


「人間の感情を手に入れるためには、何をすべきだろうか?」


ある晩、澪は佐藤が飲んだ帰りに一人で歩いているのを見かけた。ついその後をつけ、彼が普段歩いている道を進んでいく。澪の心には緊張と興奮が入り混じっていた。彼女は自分の欲望を満たすために、佐藤を観察し続けた。


ある晩、佐藤はいつもの道を通り過ぎ、暗い公園の中に入っていった。そこで、澪は決定的な瞬間を迎えた。彼女が持っていたナイフを手に取ると、心臓が高鳴り、全身が震えた。彼女は自分の過去の経験や感情をすべて無視し、ただその瞬間を生きることにした。


澪は静かに佐藤の背後に近づいた。月明かりの下、彼の無防備な姿を見て、澪は心の中で感情が渦巻くのを感じた。彼が立ち止まった瞬間、澪は思わず声を上げた。


「ねぇ、佐藤さん。」


彼は驚き振り向いたが、澪はすでにナイフを振り下ろしていた。鋭い刃が彼の皮膚を切り裂くと、澪の心の中の何かが動く。初めて感じた血の温もりと、彼の目に映った恐怖。澪はその瞬間、何かがピークに達したかのように感じた。


「どうして……?」


佐藤は苦しみながらも問いかけた。澪はその言葉に何も答えられなかった。ただ、彼の目の中で消えていく命の光を見つめる。


その後、澪は彼を見つめたまま、静かに立ち去った。公園の外に出ると、空はすでに明るくなりかけていた。しかし、澪の心は静まり返ったままだった。


数日後、ニュースで佐藤の死が報じられた。周囲は彼の死を悼み、彼の明るい性格を称賛した。しかし澪にとっては、それは一種の快感だった。彼の存在が消えることで、あの瞬間の感情が、彼女自身の中に残り続けるからだった。


澪は大学生活を続けながら、ますます他人との関係を深めていく。友人たちの間で彼女はただの普通の女子大生として振る舞うが、その心の中では次のターゲットを探していた。


ある日、彼女は友達の一人、朋美(ともみ)とも仲良くなった。朋美は澪の存在に興味を示し、彼女を少しずつ自分の世界に引き込んでいった。澪はその魅力に惹きつけられながらも、朋美を利用する未来を思い描いていた。


彼女は朋美との時間を楽しむ一方で、内心では次の計画を練っていた。朋美がどんな感情を持っているのか、どうすれば彼女の心を揺さぶることができるのか。澪の心には、再び冷酷で欲望に満ちた思考が渦巻いていった。


やがて、澪の中で何かが切れる。ついに朋美に手をかける時が来た。彼女の心の奥底に眠っていた何かが目覚め、澪は再びその衝動に身を委ねるのだった。彼女は、また新たな感情を求めて、冷酷な行動に出る。


澪は、自らの欲望に駆られ、また一人の命を奪う準備を進めていく。そして、行動することによってしか得られない感情に、自らをしがみつけるのだった。