闇を暴く探偵
広がる都会の夜、冷たい雨がアスファルトを打つ音が不気味に響き、路地裏のネオンがぼんやりと光を落としていた。その夜、探偵である村山健は、依頼主から預かった一通の封筒を握りしめていた。封筒には、「この男を見つけ出せ」とだけ書かれたメモと、一枚の写真が入っていた。写真には、薄暗いバーらしき場所で一人の男が座っている姿が映っていた。
「この男は一体誰なんだ?」と、健は写真の男に視線を注ぎつつ、自問した。何故その男を見つけ出す必要があるのか、依頼主は一切の説明をしなかった。それでも、健の職業柄、不審な依頼に少なからぬ興味を持たずにはいられなかった。
その晩、健は写真に写った男についての情報を探すため、かつて彼が贔屓にしていたバー「ブラッドムーン」を訪れた。バーの表情のない店主、片山は、客のことには一切口を挟まないことで有名だった。しかし、健はその夜、片山に無理を言って写真を見せることにした。
「見たことがあるか?」と健が問うと、片山は写真をじっと見つめ一瞬ためらった後、思わずぽつりと「確かに見覚えがあるが、最近は見ていない」と答えた。
捜索の端緒としては不十分だったが、健はこの人物の手がかりを得るために更なる調査を続けることにした。次の目的地は、街の情報屋、美咲のいるカフェだった。美咲は何時も情報収集のプロフェッショナルで、彼女に頼めば何か手がかりが見つかるはずだ。
「この男を知っているか?」健が写真を見せると、美咲は端末を操作しつつ答えた。「ああ、彼は田代啓司。ギャンブル癖がひどい元警察官。かなりダーティな取引にも関与していたと聞くわよ。でも、数日前から姿を消したって噂があるの。」
健はその言葉に動揺した。ならば、田代が今何をしているのかを追跡することが必要だった。美咲から提供された情報を基に、健は次に田代がよく出入りしていたという地下の賭場へ向かった。そして、そこで何を見つけるかに期待を寄せた。
地下賭場の薄暗い照明が奇怪な影を作り出している中、健は慎重に足を進めた。ギャンブルテーブルには様々な顔ぶれが揃っていたが、その中に田代の姿は見当たらなかった。やはり、彼はすでに逃亡しているのか――そう思ったその瞬間、背後から冷たい声がした。
「村山探偵、何を探しているんだ?」
振り向くと、そこには田代が立っていた。目の奥には鋭い光が宿り、その表情からは冷酷さが漂っていた。「君は、私を探しているのか?」と、田代は静かに問いかけた。
健は油断せずに答えた。「そうだ。依頼があって君を見つける必要があった。だが、君はいったい何をして逃げているのか?」
田代は軽く笑うと、「ただ逃げるだけじゃないさ。俺にはまだ、済ませるべき仕事がある。」と言った。次の瞬間、田代の手には小型の銃が握られていた。
「その依頼主が誰だか知らないが、君はもうここで終わりだ」と田代が銃を構えた瞬間、背後からもう一人の影が現れた。
「終わりにするのは君の方だ、田代」と言ったのは、依頼主である川辺だった。川辺は警察の上司であり、田代の汚職を暴こうとしていた人物だった。
一瞬の緊張が走った後、銃声が響いた。田代は膝をついて倒れ、川辺は冷静に手錠をはめた。「ありがとう、村山探偵。君のおかげで、田代の闇を暴くことができた」と川辺は言った。
事件が終わり、健は無事田代を捕えることに成功した。しかし、その背後にはまだ知られていない多くの謎が眠っていた。氷山の一角に過ぎない――その思いが、健の心に新たなる捜査への意欲を燃え立たせるのだった。
夜の闇が深まる中、健は煌めく街灯を背にしながら、次なる謎と対峙する決意を固めた。雨はやむことなく、都会の夜は更なるサスペンスを孕んで続いていた。