光と影の恋

春の暖かい午後、桜の花びらが風に舞い散る川沿いのカフェ。「カフェ・フルール」のテラス席で、20代前半の女性、麻美(あさみ)はカプチーノを手にしていた。彼女の対面には、年下の妹、莉奈(りな)が座っている。莉奈はスマートフォンを片手に何か熱心に読み込んでいるようだ。


麻美は、見慣れた光景に苦笑いを漏らした。いつも忙しそうにしている莉奈だったが、今日は特に様子が変だ。


「莉奈、さっきから何見てるの?そんなに面白いもの?」麻美が聞くと、莉奈は一瞬顔を上げてから、またスマートフォンに視線を戻した。


「ねえ、お姉ちゃん。最近、大学の同級生といい感じなんだけど、デートのプランがなかなか決まらなくて。ネットでおすすめのスポットを探してるの」莉奈が答えると、麻美は再び笑った。


「デートねぇ。まあ、色々考えるのも大変だよね」


麻美自身、恋愛に対しては少し臆病だった。過去の失恋の経験から、心が傷つくのを避けるようになっていた。


「お姉ちゃん、なんでいつもそんなに冷静なの?恋愛のこともっと楽しんでいいのに」と莉奈が不満げに言うと、麻美は少し困ったような顔をした。


「まあ、色々あるからさ…」と適当に話を終わらせようとする麻美を、莉奈はじっと見つめた。


その瞬間、カフェのドアが開き、一人の男性が入ってきた。高身長でシックなジャケットを羽織った彼は、麻美と莉奈のテーブルに向かってくる。


「おっと、これは驚き。お姉ちゃん、知り合い?」と莉奈が呟いた。


その男性、智也(ともや)は麻美の高校時代の友人で、数年前から疎遠になっていた。智也は少し気まずそうに笑みを浮かべた。


「麻美、久しぶりだね」


麻美は目を見開いて、椅子から立ち上がった。「智也、こんなところで会うなんて。本当に久しぶりね。」


智也はふたたび笑みを浮かべ、莉奈に目を向けた。「君が麻美の妹さんかな?」


「そうです。莉奈です。よろしくお願いします」と莉奈も笑顔で答えた。


三人はそのままテーブルに座り、智也が近況を語り始めた。彼は最近、出版社に勤め始めたばかりで、新しいプロジェクトに携わっているという話だった。


「妹さんは、大学生なんだね。素敵なデートプランが見つかるといいね」と智也が言うと、莉奈は興味津々に彼の話に引き込まれた。


すると、麻美が思わず口を開いた。「そのプロジェクトって、もしかして『ラブコメ』に関するもの?」


智也は頷いた。「そうなんだ。実は、恋愛小説の編集をしていてね。いろんな恋の形を見つけるのが楽しくて。」


莉奈が目をきらめかせた。「わあ、それってすごく素敵じゃない?恋愛のプロかもね。」


智也は微笑んで麻美を見た。「麻美も、いつか恋愛小説を書いたらどうだい?昔から文才があるし、きっと面白いものになる」


麻美は少し恥ずかしそうに顔を赤らめた。「私が恋愛小説を書くだなんて、考えたこともなかったけど…」


「お姉ちゃん、それいいじゃん!」莉奈が興奮気味に言った。「私は恋愛のアドバイザーになるよ!」


三人の会話は自然と盛り上がり、やがて笑い声が絶えなくなった。


時間が経つにつれ、日が傾き、カフェのテラス席がオレンジ色に染まる頃、智也は立ち上がった。「今日は楽しかったな。次回もまた会おうよ。」


麻美と莉奈も立ち上がり、それぞれのバッグを持ち直した。


「ありがとう、智也。今日は本当に楽しかったわ」と麻美が感謝の気持ちを伝えると、智也はほほえんだ。


「こちらこそ。麻美も莉奈も、またね」と智也が言うと、三人はそれぞれの帰途に着いた。


その晩、麻美は自宅でパソコンの前に座り、幼い頃からの夢だった執筆活動に取り組んでいた。しかし、今日は特別な日だ。彼女は自分の思いを少しずつ言葉に変え、初めての恋愛小説のプロローグを描き始めた。


莉奈の熱心なアドバイスと智也の激励が、麻美の心に新しい風を吹き込んでいた。そして、書きながら、彼女は不意に自分もまた新しい恋に向かって歩んでいることに気づいた。


姉と妹、それぞれが違う形で恋愛と向き合い、それぞれの物語を紡ぎ出していく。春の空気が暖かく包み込む中、二人の姉妹は新しい一歩を踏み出す。


これから先、彼女たちの物語がどのように展開していくのか、誰にもわからない。しかし、一つだけ確かなことがあった。それは二人の絆が、どんな困難も乗り越えていく力になるということだ。