幽霊の秘密

古びた洋館は町外れの森林の奥深くに佇んでいた。年季の入った外壁は苔に覆われ、窓ガラスはひび割れて、不気味な静寂が漂っていた。その洋館には古くから幽霊が出るという噂があり、町の人々は決して近づこうとしなかった。


ある晩、好奇心旺盛な19歳の若者、翔太はその洋館に足を運ぶ決心をした。友人たちに挑発された彼は、一人で中に入って、一晩中過ごすという条件を受け入れてしまった。スマホのライトを片手に、翔太は森の中の細道を進んでいった。月明かりがぼんやりと照らす中、洋館が彼の視界に現れた。


風が木々の間を通り抜け、葉っぱがささやくような音を立てていた。恐怖を押し殺しながら、翔太は洋館の大きなドアを押し開けた。ドアの錆びついた蝶番が悲鳴をあげるように軋む音が、夜空に響き渡った。


中に一歩足を踏み入れると、古い木製の床板がぎしぎしと鳴いた。翔太は深呼吸をし、ドアを閉めた。静寂が彼を包み込む。壁には古びた絵画がかかり、どの顔も不気味に笑みを浮かべているように見えた。彼は一部屋一部屋淡々と見て回った。それぞれの部屋には古い家具や、今にも崩れそうなベッド、そして朽ちた書斎があり、まるで時が止まったかのようだった。


だが、ある部屋に入った瞬間、翔太の心臓は一拍遅れた。その部屋は異様だった。シンプルなインテリアに混じって、床には無数のろうそくが並べられていたのだ。中央には奇妙な円が描かれ、その中には古代の呪文が散りばめられていた。翔太は背筋が寒くなり、その円を避けてソファに座ることにした。


時間が経ち、彼のまぶたが重くなり始めたその時、遠くから足音が聞こえてきた。目をこらし、その方向を見つめるが、何も見えない。ただ、その音だけが近づいてくる。足音は階段を登り、ふいに止まった。その不気味な静寂が再び訪れた瞬間、扉がひとりでに開いた。


そこには、うすぼんやりとした影が立っていた。翔太はその場にすくみ上がり、声も出せないまま影を凝視した。影は徐々に形を取り、やがて古びた服を着た女性の姿が現れた。彼女の目は深い闇に飲み込まれるようで、目が合うと翔太は肌が凍りつくのを感じた。


「助けて…」彼女は低い声でつぶやいた。その声はまるで深い井戸の底から響いてくるようだった。


翔太は勇気を振り絞り、「何があったんだ?」と聞いた。しかし、彼女の次の行動は予想外だった。彼女は突然、翔太に向かって叫び声をあげると同時に、空気が震え上がり、部屋中のろうそくが一斉に消えた。


闇が彼を包み込み、息も絶え絶えにスマホのライトを点けると、女性の姿はもう消えていた。だが、翔太の背後に何か冷たいものが触れるのを感じた。振り返ると、幽霊の顔が目の前に迫っていた。その顔は凍りついた恐怖の表情を浮かべ、目からは黒い涙が流れ落ちていた。


翔太は必死に逃げようとしたが、足が動かない。幽霊は彼に手を伸ばし、その冷たい指先が彼の胸に触れた瞬間、翔太は熱い痛みを感じた。息が詰まり、目の前が暗くなっていく。彼の意識が遠のく中、耳元で再びその呪われた声がささやく。


「もう一度、生きる意味を見つけて…」


翔太は突然、光に包まれ、激しく目を開けた。周りの景色は変わっていた。彼はまた、洋館の外に立っていた。足元には自然と生えた草が広がり、夜が徐々に明けはじめていた。だが、胸の痛みはまだ残っていた。


震える手でスマホを確認すると、夜の間に撮った写真やビデオが残っていた。だが、そこに映っているのは彼が見たものではなかった。空っぽの部屋やただの廊下の写真。ただ一つだけ、異様なものがあった。最後に撮られた映像には、自分が一人で叫ぶ姿が映っていた。そして、その背後には、薄暗い女性の顔があった。高く上げた笑顔の中にひそむ狂気が覗いていた。


その日から翔太は、洋館について誰にも話さなくなった。胸の痛みは消えることなく、時折深夜、彼の耳には幽霊の囁きが聞こえるのだった。そして彼は、一つの真実を知っていた。あの洋館には、生者と死者の境界を超える秘密が潜んでいるのだと。